第五十一話 元魔王は、誰であったも同じ対応な件について(仮)
「行ったみたいだな」
よっこいしょ。という具合に、俺は土の中から顔を出した。顔についた土とかなんやらを拭いながら、地面に降り立つ。
すると、目の前に腕が急に飛び出してきた。
――びっくりしたー。
「引っ張って」
「いや、自力ででろよ」
「無理。絡まった」
――なにが?
「ったく、サルの次はゾンビかよ」
こんなところで時間を潰している時間もないので、俺は仕方なくそのだらりと飛び出している腕を握り、一気に引き抜く。要領としては大根を腰から引く抜く感じに似ている。
土から出てきたシャルを、そのままの要領で天に放り投げた。
シャルは空中で回転しながら、土やなにかを払い、綺麗に着地をする。どこからともなく拍手が音がしているような気がした。
「とりあえず、よくわからん黒魔術師の気配はなくなったみたいだからな。本命に向かうぞ」
「わかったわ」
俺たちは、深層部を突き進む。俺としては、未開の土地である深層部だ。それなりの猛獣なんかが生息していると警戒をしていたが、そんなやつらとは出会うことはまるでなかった。
――これもまあ、あの黒魔術師のせいかな?
黒魔術師は、命を扱う魔術師だ。つまり、ここら一帯に生息をしていた猛獣どもは、もしかすれば、あいつの儀式に見事に使われてしまったのかもしれない。
それか、現在進行形で、あいつがやっているのか。
突き進むと、本当にこの森林は綺麗な森であるなと思えてくる。
しかし、それは外套でしかない。
残念ながら、この森林には、妖精の気配が一つもなかった。それはつまり、将来的にこの森は滅びることが決まっているということだ。
見捨てられたわけじゃないなら、これもあの黒魔術師の仕業か。
――妖精の命も使っているのかもしれない。
流石にそこまでのこととなると、黙ってみているわけにも行かなくなる。
距離にして五キロほどを進むと、視界が開けてくる場所に出た。そこで一旦足を止める。
「あそこか」
「気配はびんびんにあそこから来てるよ」
「じゃあ行くか」
罠の気配ない。
開けた土地の真ん中にあるのは、小さな家屋である。木々で作られたその家屋からは、禍々しい力が漏れ出ていることを視界からも理解することができる。
まったく、面倒なことをしてくれたものだと、俺は肩を落とした。
入り口だと思われる場所に、俺は立つ。そして、そのまま普通の家を訪ねるようにして、ドアをノックした。
しばらくしてから、誰かがこちらに向かってきていることが音からわかる。
「誰だい?」
ドア越しの再会だった。
「ひさしぶりだな。ここを拠点にしていたんだな」
「その声、どこかで聞いた声だね」
「もしかして、シャルにここまで飛ばされたのか?」
しばらくの沈黙。
すると、すぐに殺気が襲ってきた。
俺たちは、すぐに家屋から離れる。
ドアがゆっくりと開く。そこから出てくるのは、見た目はただの幼女である人物だ。しかし、身体からは禍々しいオーラを放っていた。
「まさか、あんたたちからこっちに来てくれるとはね。わかっているのかい? ここは魔女であるあたいの土地。つまり、こちらのほうが有利なんだよ?」
「それは、お前と戦うことなったらの話しだろう?」
「冗談が上手いようだね」
幼女は微笑む。
「あんたと話し合いをするつもりは毛頭ない! このロリコン野郎が!!」
魔女の身体から瘴気が発せられる。
「まあ、落ち着けよ。この言葉を聞いたら俺の話しを聞く気になるかもしれないぜ」
「なに?」
「カナ。お前の名前だ。しかも、転移前のな」
「……どうして、あたいの名前を、お前が!?」
一瞬、幼女――カナからの殺気が弱まる。しかし、すぐに殺気が先ほどよりも強まってきた。
「どういうことだい!!」
――やべー。ミスった。
どうやら、警戒心を強めさせてしまったみたいだ。
まあでも。そうなるのも無理はないか。そもそも、俺の正体が、まさかの勇者だったとは思っていないわけだからな。とはいえ、ここで彼女にそれを信じてもらう以外、取れる手段はない。
できれば、カナには、こちら側についてもらわないと、後々面倒だ。
鉄は熱いうちに打て、つまり、先手必勝。
「シャル」
「わかった」
シャルが開けた土地に防壁を張る。これは、俺のこれからの行動が外部に漏れないためのものだ。
俺は、力を解放する。
瞬間、身体が発光し、俺の周りには、この場に居ないはずの精霊が集まってきていた。簡単にいえば、一瞬にして加護の力で俺は神々しい存在になる。
「これを見て、わかるか?」
「そ、それは、あの人の……」
「そうだ。この力を使うことができるのは、その人物以外いないはずだ。つまり――」
「どうして、お前がその力を持っているうううううう!!!!!」
カナの怒号により漏れ出た力で、家屋が壊滅的に粉砕した。
「もしかして、あの人から力を奪ったのかい? それをあたいに見せ付けて、怒らせたいのか!?」
「いや、あの、そういうわけじゃないくてだな……」
――どうしていつもこう、よくわからない思考に至るやつが多いんだよ。
「もういい。あの人が居ないのなら、あたいはお前を殺して、あたいも死ぬ!!」
――待て待て待て、間がすっかり抜けてるぞ!!
と、思うのもつかの間。カナが、突進してくる。
「破壊の最終呪文」
カナは自身の前で、魔術式を構築しだす。それは黒魔術として、最高破壊魔術のさらに、最高の魔術。自分と相手とをリンクさせて、道連れにする魔術だ。
――やばいやばいやばいやばい!!
「我らを穿つものあれば、我は共に滅せられるための真髄をその場に現したまわむ。ダブルスイサイド!!」
黒い魔術式が、俺を拘束しようと、カナの身体から飛んでくる。これにより、俺とカナは離れることができなくなり、最終的に地獄の釜のふたが開き、俺たちはそこに落ちるというわけだ。
――そんな死は御免だ。
「シャル。頼んだ」
「貸しよ。これ」
「プリン十個な」
「メインストリートにあるお店のやつね」
――確か、一つで、通常のプリン十個分くらいするやつか。
「わかった。それで手を打つ」
「オッケー!」
シャルは微笑み、俺とカナとの間に割り込んでくる。
「邪魔だよ! あんたには関係のないことでしょ!! それに、あんたごときの小娘に防げるものじゃない。死にたくなかったらどきな!!」
「消去」
シャリが手を向けて、言う。
次の瞬間、無数に伸びていた魔術式が、一瞬にして霧散した。鮮やかに散り散りになる。
――おお。流石。
シャルは元魔王だ。畏怖の力の根源は黒魔術に近い。つまり、ある程度の黒魔術であれば、ただの言葉だけで、シャルなら打ち消すことが可能である。
といっても、相手が行使した魔術は、最高難度の黒魔術。それを打ち消すとは、流石の力だといえるだろう。能力差が天と地ほど離れているからこそできる行為だ。
もちろん、俺も同様のことをしようと思えば、できるわけだが、リミットを外す必要性が出てくる。
――それだと、流石に防壁だけじゃすまないからなー。
「ど、どうして??」
カナはまるで意味がわからないというように、両手を見つめていた。
シャルが振り向いて聞いて来る。
「どうするの?」
「とりあえず拘束だな」
「わかった」
シャルはツカツカと、カナに近づいていく。カナはあまりの驚きで、それに気が付かないで居た。
――どうするんだ?
「てい!」
シャルは、カナを上から思い切り殴りつけた。
「ごふ!!」
それにより、カナは、垂直に地面にめり込む。
首から上だけが出ている形となった。
「はい。拘束完了!」
――うん。まあ、広義の意味ではね。そうだろうけど。
流石に、それは俺も予想できなかったことだわー。
やはり、シャルにとって姿形など、まるで意味がないらしい。
――幼女姿相手に、容赦ねえのね。




