第五十話 元勇者と元魔王はドロ人形だった件について(仮)
自分の頭が回っていないことを、ユージンは、まるで気が付かない。彼にとっては予想外を通り越して、天変地異でも目の前で起こっているのかと、錯覚するほどであった。
――一体……なにが??
彼はゆっくりと視線を血みどろの死体から上げる。そして、ネリ・マリオネットと視線が合った。
「どうした? そんな驚いた顔をして?」
ネリが言いながら、「ああ」と頷いた。
「この周りに居る連中のことで驚いてるんだな。うん。まあ、残念だったな。こいつらも懸命に戦ってたよ? だけどまあ、俺には及ばない。だって、俺最強だし。特に弟のナルを殺すのは忍びなかったけど、まあ敵だったら仕方がないよな」
ネリは、首をコキコキと鳴らした。
「で? お前らも俺とやるの?」
瞬間、その場に居た全員が死を悟った。革命軍の中には気を当てられて、その場に崩れ落ちる人物も居た。
ユージンも察する。
――こいつには絶対に勝つことができない。
「はは、こりゃ。どうしたものかな……」
ユージンの隣でマリンダが震え声で言った。
「やるしかないぞ。ユージン。どうせ、ここまで来たら、どうすることもできない! うおおおおおおおおおおおお!!!!」
マリンダが、全魔力を放出する。
それを見て、ユージンも彼女の言う通りだとおもった。勝ち目はなくことも、やるしかない。この世界に絶対はない。つまり、絶対に負けるということもないはずだ。
「行くぞお!! 革命軍!!」
ユージンも身体から声を振り絞る。
これでも付いてこれるのは、少しだろう。すでに戦意喪失をしている人物も居る。
だが、親友の敵をとらずして、革命などできるはずがない!! と彼は命をすり減らした。
しかし、次の瞬間、マリンダや、ユージン、さらに二人の言葉で奮起をした革命軍の身体の力が一気に抜ける。
気が付けば、誰もが膝を地面についていた。
ユージンの目の前に黒魔術師が現れた。
それにより、ユージンはすべてを悟る。
「どうして……」
「俺がお前たちに掛けたのは、力を上昇させるものじゃない。ただ魔力が垂れ流しになるだけのものだ。そりゃ体内にある魔力を一気に放出しているわけだから、力が上昇したように感じるだろうな。だけど、その状態でさらに力を出そうとすれば、一気にガス欠になるのも当然」
「お前は……王国の人間だったのか……」
「そうだ。お前には確かに時期王としての素質があった。だけど、若さゆえの過ちだな。俺の役割は、今後国にあだなす危険分子を一掃するために、革命軍を創立させて、滅ぼすこと。つまり、お前たちはただ俺たちの掌だったわけだ。ですよね。ナル様」
「ナル……様?」
ユージンの視線の先には、先ほどまで血まみれだったはずのナル。
彼はいつも通りの笑みで、ユージンを見ている。
「ユージン。お前は本当に滑稽だったよ」
「そんな……これまでのことは!?」
「ウソだよウソ。決まってるだろう? 俺は王族だぞ? 誰がこんな甘い蜜をそそることができる立場を捨てるかよ。馬鹿かよお前。どんだけ人のこと信じているんだよ。そんなだど、将来大変だぞ? って、そうか。お前はここで死ぬんだよな」
「……く、そおおおおおおおおお!!」
ユージンは力を振り絞って立ち上がり、ナルに向かっていく。
「天成の剣!!」
振りかぶり、剣を振り落とす。しかし、鈍い彼の攻撃より先に、ナルのただの前蹴りがユージンの腹に入った。
それにより、ユージンはその場でうずくまる。剣が手から落ちた。
ナルがその剣を拾う。
「ここでの残虐は、お前がやったことにするよ。トチ狂った高級貴族が、人を殺しまくった。ってな。明日の新聞の一面になると思うぞ! 歴史に名を刻むことになる。おお、これは一種の革命だな! ……まあ、ただの犯罪者としてだけど。そこで自分の愚かさを見ておけ」
そこからはユージンにとって地獄でしかなかった。
彼の目の前で、彼の剣によって、同志達が惨殺されていく。異臭が鼻を突くころには、約百体の死体が目の前に転がっていた。
もう、涙も喉も枯れた。
「じゃあ、来世では、お利口に生きるんだぞ?」
目の前に剣が振り落とされる……。
目を開けると、一瞬なにがどうなっているのか、ユージンは理解ができない。
視界に映るのは、懐かしい光景。
王都での、彼の住居である場所、すでに荷物をすべて運び出しているが故に、ただの板張りの部屋でしかない。
なにがなんだかわからないが、自分の身体が汗だらけであり、椅子に座していることを、ユージンはしばらくしてから理解した。
彼には脱水症状気味のしんどさがあった。
「これをのみな」
と、水の入ったコップを渡される。ユージンは一瞬でそれを飲み干した。さらにもう一杯。そしてもう一杯とのみ、計五杯を飲んだところで、漸く落ち着く。
「大丈夫かい?」
「え? ああ……うん」
ユージンは、先ほどからせっせと水を運んできてくれた人物を不思議な目で見てしまう。
黒いローブを纏った幼女。
幼女として見える姿と、相手の雰囲気がとてもミスマッチに、彼には感じられた。
「えっと……」
「元気みたいだね」
「その、これは一体……?」
「あたいは、魔女だよ」
「魔女?」
「俺の昔の知り合いだ」
後ろから知った声がしたので、ユージンは振り返る。そして、彼は目を見開いた。そこには、死んだはずの二人が居た。
「ヒカルと、シャル。どうして君たちがここに……」
「どうしてって、ここは俺たちの家だからな。そりゃ、三日間の調査が終わって自宅に帰ってきてわけだから、ここに居るだろ?」
「でも、君たちは……」
「死んだはずだ。ってか?」
「…………」
「まあ、確かにな。俺たちはあの黒魔術師にやられたよ。見事に首と胴体を真っ二つに切られたわけだ。だけど、それだけだろう?」
「まさか、それでも生きてたのか?」
あり得ない。とユージンは思う。
しかし、あり得るのかもしれないとも思った。彼らは転生者。自分の知らない秘密があったとしても不思議ではない。
「まあな。だって、あれは偽者だし」
「偽者?」
「黒魔術師がやったのは、俺とシャルが作ったドロ人形だ。ほとんどやられる一瞬だけ摩り替えたやつだな。その後は上手いこと幻惑魔法でごまかせば、万事俺たちは死亡ってわけだ」
ヒカルは、笑みを見せる。
「それよりも、お前がこれから経験する未来は見えたかよ?」
「え?」
ユージンは、先ほどまで見ていた光景を思い出す。
瞬間、嗚咽が出てきた。
「あれは……一体……」
「カナがお前に掛けた魔法だ。これから先の自分の未来を夢としてみることになる特別な魔法。俺の未来予知の力と、カナの予言の力を合わせて特性魔法だよ。とりあえず、なにが起きる予定だったのか、話してみろよ」
にわかには信じがたい話しだ。
しかし、先ほどまで見ていた光景は、実体験として今でもユージンの脳裏にこべりついている。あれが、本当にこれから起こるはずであったことならば、そうなのだろうと、信じることができるほどのものである。
ユージンは、一度大きく息を吐いてから、自分が見たことを話し出した。
◇
「なるほど、まあ、なんとも胸糞悪い話しだな」
俺は、言いながら肩をすくめた。
「じゃあ、やることは一つだな」
「どうするつもりなんだい?」
「そのネリとか言うやつを倒すんだよ。でも、俺は革命なんて大それたことはやりたくないからな。それにまだラスボスと対決する時期じゃない。だから、事を丸く収めるわけだ」
「丸く?」
「そう。お前には悪いが、革命は中断だ。だけど、ナルだかネリだかは邪魔だろう? それにいろいろと事を起こしてしまっているわけだからな。だから、俺の都合の良い風にすべてを改竄する。俺のスーパースローライフは誰にも邪魔させない」
俺としては、革命は中止にしましょう。はい終わり。にしたいわけだが、俺たちの存在を理解しているやつらが居る時点で、俺の安らか生活は達成できない。
つまり、最終的には、議会に居るやつらもさっさと潰す必要があるわけだ。
だが、相手の力が現状どれほどかわからない以上、手出しはまだしないほうがいいだろう。ああいう裏の連中は、何か隠しだまを持っているって言うのが、常套だ。
それを探る必要がある。
なんともまあ、この世界に転生してきて理由がいろいろと表立ってきたわけだな。俺がこの世界に居るのも、後少しかもしれない。
「ヒカルは勇者になる存在だからね」
シャルが突然言い出す。それには顔が自然と嫌悪感に包まれた。
「ならないって言ってるだろうが。だけどまあ、今回はお前を救ってやるよユージン。ナルとかネリとかをぶったおして、とりあえず死者を出さないようにする。で、その二人を逆に奴隷にしてやる」
「うわ、ヒカル。今の顔、ただの悪党だよ」
おっと、危ない。危ない。
これだとせっかく俺の正体を魔女に明かしたって言うのに、また信じてもらえなくなるところだ。
と、魔女を見る。
「カナ。お前も協力してくれるだろ?」
「もちろんさ。あたいは、あんたの愛人だからね」
「そ、そうか。うん、それについては、また今度ちゃんと話し合おうな。うん」
愛人って言葉のこの背徳感がすごい!
カナという魔女といつ、どこで話しをしたのか、それは暗黒の森での話しに遡る。




