↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
82/98

第四十九話 元孤児は、世界の変革を望む件について(仮)

 ユージンは、自分が革命軍の先頭に立ち、議会に向かっていた。

 議会が開催されている場所は、王都の中心部にある宮殿の中である。歴史ある宮殿であり、このドルー王国が建国されてから一度たりとも敵の侵入を許したことはない。

 つまり、神聖な場所であるというわけである。


 宮殿に向かう革命軍の総数は百あまりだ。そして、宮殿を守護している宮廷騎士団の総数は二十人。単純な数の計算で言うならば、五倍の戦力がこちらにあることになる。そして、さらにこちらには黒魔術師が付いている。

 黒魔術師により、革命軍の人間は誰もがワンランクは戦力が上がっている。

 最低でも大公(グランド・デューク)程度の戦力はあるはず。


 ――これなら勝てる!!


 戦いに置いてなにが一番大切か。

 それは数ではなく、相手の中心部を占領することができるかどうか、ということだ。


 つまり、そのどちらでも先手が取ることができる。


 現在。革命軍は隠れて行動しているわけではなく、武器を身につけて、王都の中央通を闊歩していた。


 しかし、そんな彼らに目をくれる王都民は誰もいない。

 それもそのはずだ。

 現在、王都には黒魔術により、薄い瘴気が散りばめられている。これは、一ヶ月間掛けて王都に充満させたものであり、この日に濃度がピークになるように準備した。

 瘴気は、人体に害をなす。


 しかし、微量であれば、敏感な人間であれば軽い錯乱的行動を起こすことがあるかもしれないが、大抵は気を失うことにより、人体が自己防衛を果たす。

 つまり、軽い瘴気は強大な睡眠効果を誘発することになるわけである。


 第二の人質はこの国民たちである。

 瘴気の度を増せば、もちろんそれは人体に有害な毒となり、最終的には死を誘発する。

 王都民すべてを人質にすれば、誰も手出しはできないだろう。


 一方、ユージンたちは、しっかりとこの日のために耐性をつけているので、ただの薄い霧としか見えない。


「気分のほどはどうだ? 大将」


 隣を歩くマリンダが言う。彼女はとても楽しそうであった。


「はは、流石に緊張をするね」

「大丈夫だよ。私が傍に居るんだ」


 マリンダは力強く言った。

 それもその通りだな、とユージンは思う。


 マリンダは地位こそ大公(グランド・デューク)であるが、実際の力量としては王(キング)の上位の力がある。女性という理由により、その地位が与えられていないことと、単純な戦闘能力が地位向上の助けとなる段階ではないことが原因だ。

 よって、ワンランク上の力を現在手に入れているマリンダからすれば、単純な力という意味では、宮廷騎士団といえども敵ではないということだ。


 ユージンがどうして高級貴族で、さらに若干十六歳にして、革命を起こすに至ったのか、ということについては、彼の壮絶な過去が関係をしている。


 ユージン・サラエボは、孤児だった。

 いや、正確には、南東にある小さな島で暮らしていたわけだが、奴隷商人に囚われて、奴隷として、最初はドルー王国とは違う別の国に売られた。そこはその国の王族という立場の人間が、子どもを玩具のように扱うところだった。もちろんユージンもその場でおもちゃのように扱われた。そのときの名前は、確かトロイという名前だったとユージンは思いだす。

 そして、五歳を過ぎる頃、もう用済みとして、ユージンはさらに別の貴族に売られることとなった。それが、サラエボ家だ。


 サラエボ一族は、表には出しては居ないが、半分以上が元孤児などを中に入れている。そうやって、全体の総数を保っているわけだ。どうしてそんなことをしているのか、それは、純粋なサラエボ一族としての血はもうほとんど残っては居ないからである。


 血が薄くなるということは、それだけ一族としての力が衰退するということと同義。だからこそ、サラエボ一族は他の一族であり、身寄りのない孤児を受けいれたという経緯である。


 理由としては簡単。

 突然変異の人間を手に入れるため。

 魔力適正という面では、確かに一族の血が関係してくる。強い血統には強い人間が育つ。しかし、底辺の中には自らの血を守るために突然変異として強大な力を持つ者が現れる。サラエボ家はそれを合法的に手に入れるために孤児や奴隷だった人間を、どんどん一族に招いた。そして、強者となりうる人間には教育を与え、そうではない人間たちは、村と称した奴隷区に隔離した。


 その中で、ユージンは強者となった。


 彼がその事実を知ったのが、十二歳のとき。

 それまでは、サラエボ家はなんとすばらしい一族なのだろうかと、彼は思っていた。衣食住だけではなく教育を与えてくれる立派な慈悲の心がある一族であると、感動した。


 ユージンは、将来、自分も弱気者の力となれる人間になろうと努力した。そして他の貴族、特に高級貴族たちも、もちろんすばらしいのだと、思っていた。


 しかし、初めてサラエボ家の領土と王都以外の土地を見て絶望をする。

 同じ貴族連中の実情が、皮肉にも彼が努力し立場が上がるたびに見えてきた。

 最後の望みを持って入隊した聖騎士も、九割は屑の集まりでしかなかった。


 ――こんな世界は壊れたほうがいい。


 彼がそう思うのも仕方のないことだろう。

 通常の精神状態で生きてきたこと自体が奇跡的だった彼の人生で、豊かになったが故に、初めて自らの生きる目的がなくなってしまった。


 そんなときに、彼は出向いた先のパーティで、ナル・マリオネットと出会うことになる。彼は、ユージンの心の中にある絶望に共感をしてくれた唯一の人物であった。


 王族であるナルにも同様の絶望があり、二人は会話を重ねるごとに、この国を変えるための力を欲するようになった。

 そして、ナルの手によって、黒魔術師と出会う。

 ナルは王族であるが故に、黒魔術師が居るであろう場所を知っていたのである。

 それが、ユージンが十四歳。ナルが二十歳の頃の話だ。


 それからはとんとん拍子である。マリンダや、その他のまだ腐っていない有力な力を持つ聖騎士たちを仲間に引き入れ、神からの啓示だと思われるすばらしき日が舞い降りてきた。


 後は実行するだけ。


 ユージンは剣を握り手に力が入っていることに、今になって気が付いた。

 自然と笑みが出る。


 ナル・マリオネットは、先行部隊として先に宮殿に向かっていた。

 ナル・マリオネットは、もちろん王族として充分な力を有していた。彼一人でも、もしかすると、宮廷の守護くらいなら打ち破ってしまうかもしれない。と今更ながら彼は思った。


 なにせ、ナリ・マリオネットは三人が英雄の一人だ。


「あそこが、宮殿か……」


 マリンダですら、宮殿を見るのは初めてである。それが、その場所の土地として、また聖地として神聖であることを物語っている。


 宮殿の場所だけが、瘴気の影響をまるで受けていない。


 革命軍は、宮殿の入り口である大きな正門で止まる。ドルー王国のシンボルで星が彫ってある柱が両脇に荘厳の立っていた。


 ユージンは振り返る。

 目の前に見えるのは、自分と志を同じにしている同士たちだ。彼らの中には命を落とすものも居るだろう。


 だが、それでもやらねばならない。

 世界を変革させるために!


「今から、君たちには、全員私に命を預けてもらう。これから先、その命尽きるまで私に尽くせ! そして、新たな世界を創ろう!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおお!!!!!!」


「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっぉ!!!!」


 ユージンが剣を掲げて、宮殿の門をくぐる。その後を、先行部隊以外の六十人ほどが続いていく。

 怒号のような地鳴りが宮殿を包み込もうとしていた。


 しかし、ユージンが宮殿の建物の手前にある広場の途中で足を止めたことにより、全体の動きが鈍化した。


 音が止む。


 そして、彼らの目の前に広がるのは無数の死体……。


 先行部隊の同志たちの無念の姿。

 その中にあるネリの姿をユージンは目で捉える。


 ――そんな……!!


「やあ、待っていたよ。革命軍の皆さん」


 そこにいるのは、その場には居ないはずの人間。いや、化け物――怪物――ネリ・マリオネットが笑顔で立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。