第三十五話 元勇者は、相手の戦闘スタイルを見極める件について(仮)
「それで、ハンデをどうするかというものなんだが……」
どうやら、あれだけ大声でハンデをやる。と言っておきながら、内容に関してはまるで考えていないらしい。
――あまり考えて話すタイプではないわけね。
まあ、それくらい予想していたけども。
「よし! 決めたぞ」
相変わらずの目の輝きでマリンダが言ってくる。
「一分間だ! 一分間、私からは攻撃しない!」
なるほどね。
「一分間、マリンダ様は防御だけしかしないということですね」
「そうだ! これですぐに終わるということもないだろう? 皆に対しての良い指標を見せることができるというものだ!」
マリンダの言葉からは、ある程度力を出せば、俺くらいの力ならすぐに倒すことができるという自信が表れているものだった。
まあ、彼女の称号からすると、ナイトレベルはそういうレベルなのだろう。
――それにしても、困ったな。
うん、非常に困った。
どうして困ったのかと言うと、こちらが一方的に攻撃をしないといけないからだ。
俺は今まで攻撃される立場だった。
それはこの世界に来てからの基本だ。
無理に俺から攻撃するとき、それは確実に相手を倒すと決めたときだけだ。
つまり、そのときは手加減はするが、ある程度の力は出すことになる。
それに、今までの相手はそこまでの強者は居なかった(元勇者は別)。
だからこそ、俺としてもあまり意識して対峙する必要はなかったわけだ。要は、最悪力を出しすぎても、ただの勘違いだと思ってくれるような馬鹿ばかりだったというわけ。
――だけど、今回は違う。
相手はかなりの実力者であることは明白だ。
だからこそ、手加減をするにしても上手くしないといけない。注意を払う必要がある。
俺からすれば、それは防御をするときは簡単なわけだ。
ただ攻撃を避けたりすれば良いだけだし、避けすぎても、素早いだけのやつという目で見られる。
だが、攻撃をただ一方的にするということになると、非常に困った。
そこでの手加減は如何ほどにすれば良いのかわからない。
しかも、最初からこれが俺の全力です! というラインを決めて攻撃する必要がある。
格上の相手を前にして、手を抜く人間など居ないからだ。
――ああ、やだわあー。
ため息を緊張から出るものだと思わせながら盛大にした。
「それと、勝利条件は私に一発でも攻撃を入れることができたらということにしよう!」
「勝利条件ですか?」
はて? そんなものあったか?
「ただの模擬戦をするだけだと、貴様としても盛り上がりに欠けるものがあるだろう? そのためのゲームだ。貴様が私に一発でもちゃんとした一撃、つまり防御などされない明確な一撃を少しでも入れることができたのなら、貴様の勝利とする。そして、好きな褒美を一つやろう!!」
「好きな褒美、ですか?」
ふむ。
「それって、本当になんでもいいんですか?」
「私ができる範囲のことなら、いいぞ」
「なるほど……」
おっと。
これはやらないといけないのかもしれない。
褒美。
――そういえば、最近畑に使う機械が壊れ始めてきたんだよなあー。
別にユリスとかに新しい機械を買ってくれと頼めば買ってくれるだろうが、交換条件を付けて来そうな雰囲気だから、頼んでいなかったのだ。
これはもしかして、俺に運が回ってきたんじゃないか?
――いやいや、待て待て。
いけない。つい相手の言葉に乗せられるところだった。
もしも、本気で相手から一本を取ろうというなら、俺としてもちょっとマジにならないといけなくなる。
ユリスとかから話しを聞いたり、現状を見る限り、相手は近接戦闘においてはかなりの実力者なわけだぞ?
そんなやつから一本を取ろうとして、もしも思ったよりも力を解放してみろ、最悪の展開が予想されるじゃないか!
――何回も言い聞かせる。落ち着け俺!!
「では、審判はユージンにやってもらおうか!!」
「わかった。やろう」
ユージンが俺たちの間に入る。
ユージンは俺に対して微笑んできた。
――もしも、ここまでがこいつの思惑の範疇だったら、後で文句を言ってやる。
と思いながら、思考を巡らす。
ユージンは俺があの婚約者争奪サバイバルロワイヤルで出した力の程度を把握している。
それを踏まえて俺をこの場に引きずり出したということなら、嫌な予感しかしない。
――ああ、いいや。今は考えるのはやめよう!
とりあえず、今のこの状況を切り抜けることを考える必要がある。
「では!」
と言って、ユージンは片手を真っ直ぐに上げた。
その手を、すばやく下ろしながら「模擬試合開始!!」と叫ぶ。
俺はとりあえず、一分間はこちらからの攻撃だけということで、マリンダに対して向かう。
速度としては先ほど襲ってきたやつらの二割り増しくらいだ。
だけどまあ、予想通り、マリンダはそれの速度を余裕の表情で見極めている。
――特段目がいいったわけか?
なら、と思い。
俺は今の速度の二倍くらいの速度で彼女の背後に回った。
そして、彼女に対して手刀を放つ。
これは相手がどういうタイプの人間なのか見極めるためのものだ。
だが、その攻撃は彼女の右手の防御によって防がれた。
――なるほど。
と思い、そのまま彼女に対して回し蹴りを放つ。
しかし、わき腹を掻っ攫ったと思われた彼女の姿は、幻影となって消えた。
「やるな!」
と声が聞こえるほうを見ると、余裕の表情で立っているマリンダが居た。
地面に着地し、彼女を見る。
――目だけじゃないみたいだな。
視界から消えた俺の攻撃を防いで避けたってことは、ある程度の魔力の動きも感じることができるみたいだ。
それにしても早い。
単純に、彼女に対して、すばらしい才能だな、と思った。
おそらく、彼女と同じ年齢で、彼女より強い人物は居ないだろうな。
「マリンダ様の得意な魔術はなんですか?」
「ん? 気になるのか?」
「ええまあ」
「風だ!! 私は基本的に風の魔法や魔術を使う! まあ、ここでは使わないがな」
言って、やはり彼女は楽しそうだった。
「いいのか? 一分という時間が過ぎてしまうぞ?」
「そうですね。じゃあ行かせてもらいますね」
俺は足の動きを不規則に動かす。
これは、相手に幻影を見せる歩調だ。
つまり、遠くに居ると思ったら、あらびっくり、近くに居ました。という具合の技である。
おそらく、こんな技を使うやつは聖騎士にはいない。
良くも悪くも聖騎士ってやつは正統派が多いからな。
とはいえ、マリンダは魔力の動きを感知できる。
つまり、幻影を見せたところで、目に頼っているばかりではないから、俺が本当に動いている先を感じることができるわけだ。
だからこそ、俺は魔力を消す。
肉体の力だけで移動する。
だけど、肉体の限界はある。
そこで、使うのが流気法。
これを使えば、気の流れに乗り、通常よりも数倍早く行動ができる。
足を踏み込み、一瞬でマリンダの背後を先ほど同様に取る。
そのまま、彼女の背中に対して掌底を放つ。
俺の手が彼女に当たるのか、というタイミングで、彼女の身体が目の前から消えた。
そのまま俺の掌底の空気圧が真っ直ぐに進み、回りを取り囲んでいる群衆の一部を吹き飛ばさんとした。
「一瞬ヒヤッとしたぞ!」
俺の後ろから声が聞こえた。
しかも、かなりの近距離だ。
「まさか、二度も後ろを取られるとは思わなかった。貴様、やるな!」
「今のは、当たると思ったんですけどね」
「私も思った。だけど、目の前から消えたということは背後か上空しかないからな、その場から離れれば問題はない」
「なるほど」
――戦い方は大雑把か。
俺はそのまま半回転しながら、マリンダに腕の回転からの横手刀を放つ。




