第三十四話 元勇者は、切り抜ける方法を考える件について(仮)
どうしてこんなことになってしまったのだろうが、一体俺がなにか悪いことをしたというのだろうか。俺は常に品行方正に勤め、神を敬愛し、すべての人々に尊敬の念を抱きながら自分という存在の愚かさやちっぽけさというものを理解し、いかに社会に貢献し、生かされていることに対しての報恩をすれば良いかということを考えてきたかということを切実に皆に伝えたい。
そして、できれば今のこの状況を打破するための手段、方策、秘策というものをぜひ伝授して頂きたく思っておる次第であります。はい。
つまり、なにが言いたいのかというと。
――早くお家に帰りたい。
ということだけなのだ。
俺みたいな人間はお家で大人しくしていることが正しい選択だったんだ。
お家にさえ居ればこんなことに巻き込まれることもなく、ただただ生きるという行為にだけ真剣に向き合うことができたはずである。
それが生きている人間というもののあるがままの姿だったはずだ。
俺はこうやって、よくわからない道場とか言う場所で、これまた良くわからない熱血的な精神を持った人物と向き合い、
さあ、これから全力で遣り合おう。
みたいなことをしたいわけではなかったんだよ。
という風に俺がどれだけ心の中でごねたところで、何も変わらないことくらい俺だって理解している。
だけど、こうやって現実逃避くらいさせてくれないと、もう心が壊れちゃうよ。とほほほ……。
というわけで、俺の前にはマリンダなる人物が居る。
ええっと、確かグランドなんたらとかいう地位にある人物だったと思う。
そして、それだけではなく、マリンダが模擬戦をするということで、皆の訓練が一旦終了となり、俺とマリンダの二人に視線のすべてが集まっていた。
興味があれば、ぜひ、俺がこういう立場になったまでの経緯をご覧ください。
時は遡ること数分前……。
「え? いや、マリンダさん。待ってください!」
俺は当然、マリンダからの模擬戦の申し出に意義を唱える。これはサルが木から落ちるくらい当たり前の行動だろう。
「どうした? なにか不都合でもあるのか?」
――ありまくりじゃボケええええ!!
という気持ちを抑えて、冷静を努めて返答する。
「その、不都合というか、そんないきなりあなたと模擬戦だなんて、そんなこと従者の一人に過ぎない俺ができないですよ」
「おいおい、そう謙遜するな。私が見るに貴様は充分強い。それも今すぐにでもナイトくらいなら取れると思うぞ」
――そんな称号いらないから!
「それなら、その……。ナイトと同列の力を持った人間とさせていただけませんかね?」
「まあ、確かにこの道場にはナイトレベルの人間は居る。しかし、お前の相手をできる人間となると、ちと厳しいんだ」
「え?」
「なにせ、ここに居るのは、これから強くなろうという人間達ばかりだかならな。称号もちは居るが、彼らには指導に専念をしてほしいからな。単体でお前とやりあえる訓練生はいない」
「で、でしたら、その集団戦闘という形ではどうでしょうか? ナイトレベルが二人ほどであれば、俺と良い均衡になるんじゃないですかね?」
どうあっても、ここは引き下がってはいけない。
――男には引き下がれないときがあるんだ!!
「それは、お前が先にやってしまっただろう?」
「はい?」
どういうことだ??
「ほら、お前が先ほど相手をした二人。あれはナイトレベルの二人だ。つまり、お前はそれをもうやって、無意味だいうことを証明している。それでは訓練にならないだろう?」
「で、でしたら! 三人では?」
「流石に三人の人間を割くわけには行かない。他の連中の訓練にも支障が出てしまうだろう?」
「ですが、それを言うなら、マリンダ様が、俺とやるほうが他の訓練に支障が出ませんかね? マリンダ様のご指導が受けられなくなるわけですから」
「お、ということは、貴様は私と渡り合う自信があるということだな?」
「あ、いえ…………そういうわけではないのですけども、そのおー」
この人、まったく引く気配がないじゃないか。
――これだから苦手なタイプなんだ。
シャルと同じではないが、種類の違う駄目なタイプだ。
落ち着け俺。
どうにかして切り抜ける方法があるはずだ。
そんな、どう足掻いても切り抜けることができない迷路などあるはずがない。絶対に抜けることができないなんて、あり得ないんだ。
絶対ということはないということは、人生経験から身に染みてわかっているはずじゃないか。
できないと思う理由は、知恵が足りないか、考えが甘いかだ。
とりあえず、今の現状としては、俺が強者二人と退治して圧倒的な優位を見せてしまったが故に、俺と単体で渡り合う人物が居なくなってしまった。
いや、正確には居るが、指導者格の人間なので、そこの人員を割くことが出来ないということらしい。
だからこそ、マリンダとしては、私が相手になってやろうということなのだろう。
そして、彼女としては、俺を簡単に倒すころができる計算で居るわけだ。
つまり、時間が掛からないのだから、指導に影響が出るわけではない。
だから、やるぞ! となっている。
ふうむ。
――とりあえず、適当にやって負けるか?
それが現状としての利口なやり方だろう。
うん、悩む必要はない。
別に、俺がマリンダを倒す必要も、ある程度力を出す必要もないのだから。
「じゃあ、その――」
と口を開きかけたとき、マリンダが「よし!」となぜか拍手を打った。
「お前の心配はわかった。じゃあこうしよう。私と貴様のやり取りを皆に見てもらう。そうすれば万事解決だ」
「は?」
つい、失礼な態度になってしまう。
やばいやばい。
「ど、どういうことでしょうか?」
「うん?」
マリンダは何を言っているんだという顔をして、
「お前は、私が模擬戦をお前とすることによっての指導の心配をしているわけだろう? ならば、二人の模擬戦自体を指導の一貫とすれば良いじゃないか!! 名案だろう!!」
「え? ちょちょっと!」
と俺が言うのもつかの間。
マリンダは、大きな声を出して訓練を中断させて、俺たちの周りに人を集めだした。
そして、言う。
「皆!! 私がこれからこやつと戦う!! その様子をしかとみよ!! 上級者の戦い方というのを見て、学び。盗み。自分のものとするんだ!! いいな??」
「「「「「はあああい!!」」」」」」
道場全体が響くほどの声での返事が来た。
もう絶望だ。
――いやいや、落ち着け……。
別にやることが変わったわけではない。
適当にセーブしながら戦い、いい感じに奮闘したと思わせておいて、負ける。やることはそれだけだ。
うん、それだけだ。
ということで、やるならばやはりど真ん中が良いだろうということになり、道場ど真ん中まで移動し、周りを綺麗な円で囲まれて見られている状況が今であった。
確かに、やることは変わらないし、別にこれで俺の人生がどこかおかしな方向に向かうと決まったわけではないのだが、頭で理解をしていても、心が付いてこないということは人間生きていれば多々あることだろう。
つまり、そういうことだった。
――もうやりたくねえ!!
という気持ちが溢れ出てきて仕方がない。
「まあ、とはいえ、模擬戦といっても何のハンデもなしにというのは厳しいだろう。だからハンデをやる!」
と、マリンダが楽しそうに言った。
多分、この人なにをしていても楽しいと思う特殊人だと思う。
だからその、とりあえず彼女には、人の気持ちを察しようね。ということを、いつか伝えたい。多分、伝えられないけど。
――できれば、今日以降は関わり合いにはらないことを祈ろう。
そう思えば、我慢もできるというものだ。




