第三十六話 元勇者はそれはもう熱気の中にて戦闘をしている件について(仮)
マリンダは俺の攻撃を身を後ろに反って避けた。
そんな彼女に、今度はレンジの長い蹴りを流れのままに沿って放つ。
マリンダは反った身体をさらに後ろのそり、そのままバクテンをして、俺の攻撃をかわした。
――まあ、予測どおりか。
こんな攻撃が当たるとは到底思っては居ない。
俺はすぐに相手との距離と詰める。
そのままの勢いにのって相手の胸目掛けて掌底を放つが、マリンダは俺の手をいなす。
「どんどん来い!」
俺はいなされたことはお構いなく、掌底を放ち続ける。
俺の攻撃はどれだけ放っても、どれだけ回転数を高めても、マリンダを捕らえることはない。
「後一〇秒!!」
と言うユージンの言葉が聞こえた。
「さあ、どうする?」
マリンダは余裕の表情で俺に問うてくる。
まったく、困った人だ。
俺は、足払いをマリンダにする。
しかし、これも当然彼女はかわす。
だが、それでいい。
俺は足払いの範囲を魔力で拡張させた。
つまり、マリンダはそれを避けるために、空中に一瞬飛翔している。
空中では逃げることはできない。
俺はしゃがみこんだ体勢から、足をポンプのようにして、マリンダに向けて正拳突きを今日一番の速度で叩き込もうとする。
――入ったか?
と一瞬思うが、そうは問屋がおろさない。
人生はイージーモードではないらしい。
マリンダは器用に空中で身体を回転させて、俺の腕を包み込むような体勢となる。
「一分終了だな!」
と言った後、そのまま彼女は俺の腕を抱えて着地し、俺を一本背負いの要領で投げ飛ばした。
ものすごい勢いで、俺は道場を飛んでいく。
――これで終わらせる気か?
ああ、それならちょうどいいな。
これで終了なら、俺もまあがんばったほうだ。という感じになるだろう。
充分に合格点は取れたはずだ。
「まだまだ!」
――は?
俺は飛ばされている。
もちろん飛ばしたやつが居て、それがマリンダなわけだが、その彼女が、誰がどうみても終わりだと思われている状況で、俺の向かう先に居た。
そして、俺はその目を見て直観する。
――こいつ、まだまだやるつもりだ!!
マリンダは構える。
そして、俺の顔面に向けて、その拳を突きつけてきた。
――流石にまともに入ればやばい!
俺はすかさず防御する。
そのまま俺は今度は反対方向に飛ばされる。
とはいえ、先ほどまでとはいかず。俺は見事に道場のど真ん中に着地した。
――マジかよ……。
防御したとはいえ、かなりの攻撃だった。
防御した腕がひりひりと痛む。
――おいおい、こりゃ一体……。
「ありゃ、マリンダ様、スイッチ入っちまったな」
という声が聞こえてくる。
「ああ、流石に後ろを二度も取られたことでテンションが上がってしまったんだろうな。ありゃ、あの従者災難だな。ああなったマリンダ様は簡単には終わらせてくれない」
「ああ、相手が立つことができなくなるまでやるぞあれは……」
「ダウンを許さなくなるからな」
先ほどまでの俺に対する「お前はどれだけやるんだ?」という目から、道場の全員の目が同情の目となっていた。
――あれ、これって俺やばい展開か?
「おいユージン」
隣に居るユージンに問う。
「なに?」
「これ、ギブアップとかできないのか?」
「残念ながら、ああなったマリンダは私でも止めることはできないよ」
「お前、これ仕組みやがったな」
俺はユージンを睨みつける。
「人聞きの悪い」
と言って、ユージンは肩をすくめた。
「私としてもいろいろとやることがあるんだ」
「やることねえ……」
――こいつには後でいろいろと聞く必要がありそうだな。
とはいえ、今は相手に集中だ。
――こりゃどうしたらいい?
俺の予定としての、適当に負けるという選択肢は泡となって消え去ってしまったみたいである。
もしも、周りの人間の言葉が本当なら、俺はボコボコにされるまで終わることができないということだ。
最悪、そういう終わり方をしても良いとは思うのだが、流石にボロ雑巾みたいにされることが耐えられるほどのMではない。それに、そんなことをされて畑仕事にでも支障が出ては本末転倒だ。
考えが纏まらないうちに、マリンダからの突進攻撃が来た。
まるで特攻のような攻撃である。
俺はそれを身を捻って避ける。
マリンダは俺の横を通り過ぎた瞬間に、足を地面について自身の速度を殺し、回転しながら後ろ蹴りを俺に放ってきた。
首から上を明らかに落としに掛かってきているそれを首を捻って避けると、次には飛翔し、別の足で俺の顔面を刈り取りに来た。
――容赦ないな!
俺はそれを右腕を顔面につけることによって、防御する。
パチン!!
といういい音が道場に響く。
「はははははは!!」
と、次には笑いながら、マリンダは、パンチを放ってくる。
一発一発が、確実に大ダメージをくらいそうなほどの威力のあるものだ。
それをなんとか、かわしながら、俺は地面を思い切り踏みつけた。
それにより、反発した空気が上空に吹き上げられる。
それにより、マリンダの身体が一瞬浮いた。
彼女がそれに気を取られている間に、俺は彼女に対して威力というよりは吹き飛ばすことを目的とした掌底を放つ。
もちろん、これはマリンダに防御されること前提だ。
予測どおりに、マリンダは自身の身体の前で腕をクロスさせて俺の掌底を防御する。
「ふん!」
と力を入れると、そのままマリンダの身体が吹っ飛ばされていく。
――これで、とりあえず距離を離すことはできたな。
流石にあれ以上ヒートアップすると、こっちとしてもテンションが上がってしまうかもしれない。これは自分を冷却させるための攻撃だった。
しかし、道場は違う。
「「「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」」」
と、なぜか熱気を帯びていた。
「あの状態のマリンダ様に、防御されたとはいえ、攻撃を与えるなんて!」
「しかも、吹き飛ばしたぞ!!」
「なんてやつだ!!」
――あ、やべ、やりすぎたか?
どうやら、今の状態のマリンダはかなりヤバイ状態らしい。
そんなマリンダと互角に遣り合っているものだから、周りとしても盛り上がっているわけだ。
これは、少しダメージを帯びたほうがいいのか?
とか思うけど、あの攻撃を喰らうと、マジでやばそうだ。
――力を解放すれば、大丈夫なんだけどな。
それか、気で相手の攻撃を流せば、特にダメージを受けることはないとは思うが、そんなことをして、マリンダにバレでもすれば、それこそ彼女はヒートアップするかもしれない。
そうなれば、本当の殺し合いになりかねない。
――今でも、あちらはその気満々だけどな。
まるで獣だな、と思った。
「今のは、私を倒す絶好の瞬間だったんじゃないか?」
ゆっくりとマリンダが近寄ってくる。
確かに、彼女のいう通りだ。
――というか、倒すとか倒されるとかではなかった気がする。
模擬戦ってそんなヤバイやつだったか?
「まあ、なんというか、女性には手を挙げれないタイプなので」
とか言ってみる。
さっきまで何度も攻撃してたよね、とか言わせない。
「つまり、私が女だから手を抜いてるってことか?」
明らかに先ほどよりも圧が増した。
もしかしないでも、こりゃ言葉のチョイスを間違えたかもしれない。
「手を抜いているってことは、今の貴様は本気ではないんだな?」
「いや、本気も本気ですとも、なにせただの従者ですからね」
「ただの従者が私と向き合って、こんなに立っていられるわけがないだろう。お前一体なに者だ?」
――急に冷静になるタイプだわこの人―。
ああ、駄目だ。
こりゃ最も最悪な展開になってしまっている。
明らかに禍々しいオーラが、マリンダから発せられている。
――おいおいおい、これから俺はどうすればいいのですか? 神様ああああああああああああああああああ!!!!




