第六話 元勇者は扱い易い件について(仮)
「はあ……」
寮の部屋で、俺は休息を取ることにした。
流石に、午前中の販売に身体がというより、心労という意味で疲れたし、シャルがあれからごちゃごちゃと、騒いだので、俺とシャルの間に一波乱起きそうになったが、ほんの少しのお礼をするということで、なんとか治まった。
まったく、
めんどくさいやつだ。
ぎゃーぎゃー騒ぐから、白いやつが奇声を上げているというやばい騒ぎになるところだった。
俺は部屋の中に入る。
「あら、おかえりなさい」
「おかえりなさいませ」
ドアを開けると、ユリスと、ミアが出迎えてくれた。
ユリス・オリビアは、この国の高級貴族であり、入学式に絡まれて以降、なぜか気に入られて、狭い寮の部屋に彼女の従者であるミアとともに、押しかけてきて、早数週間だ。
リビングの半分以上を占めるユリスの大きなベッドの横にある、これまたまったく似つかわしくないシックなテーブルの椅子に座って、ユリスは優雅にティータイムに入っていた。
ユリスにミアにシャルは、それぞれに別の住処があるわけだから、こんなところにいる必要はないわけだ。
だから、幾度か、部屋から追い出そうとしたが、まったく俺の言うことなんて聞いてくれない。
まあでも、部屋の家賃やその他もろもろに関してはユリスがいろいろと手を回してくれているらしいので、それはそれでいいんだが、それでも一人になりたいときになれないないのは、少し苦痛なときもあった。
「お前、今日は実家の会議? かなんかじゃなかったっけ?」
昨晩、ユリスとミアは、実家に戻った。
なんでも、大事なオリビア一族の会議があるとか言っていた。
「ええ、私の新しい婚約者をどうするかって言う会議だったのよ」
「それはまたご苦労ですな」
「それで、一応、いくつかの候補が上がったんだけど、どれも駄目ね」
「どうしてだよ?」
テーブルのユリスの前の席に座ると、ミアが、俺の分の紅茶を用意してくれた。
「全員、ただのお坊ちゃんだもの、貴族なんて地位に胡坐をかいているだけの、なんの実力もない人ばかりね」
――それお前が言うんだ。
と、内心びっくりした。
初対面は随分、貴族と田舎者と言う身分の差でいろいろと言われた気がしたが……。
とりあえず、紅茶を一杯頂く。
「でも、どうしてもお母様、お父様が婚約者候補を数人見繕ったから、会って欲しいって言うのよ」
ユリスの話しは特に興味はなかったけど、とりあえず聞いている振りをしていた。
彼女も、シャル同様に、ちょっとめんどくさいので、ある程度は、流しておかないと身が持たない。
「それで、私は言ったの。ある男と会って、その男に勝つことができたのなら、私は正式な場所でお話をします。とね」
「ある男……?」
ここで、嫌な予感マックスだ。
ここからさっさと転移魔法で消えたいくらい、嫌な予感しかしない。
というか、これほどわかりやすい展開もそうあるものかね?
ユリスは、にやっと笑い。言う。
「ヒカル。あなたは、これから私の婚約者候補五人と会って、模擬戦なりなんでもいいからやりなさい。それで勝つのよ」
――やっぱりそういう展開ですか!
「……ちょ、ちょっと待ってくれ」
「何よ?」
――何よ? じゃねえよ! 何不思議そうな顔してんだよ。
ユリスは首をかしげている。
「どうして、俺がそんなことをしないといけない? しかも、そもそも、何勝手にそんなこと決めていらっしゃるんですかこの野郎」
「忘れたとは言わせないわよ」
「何を?」
「私の元婚約者をボコボコにして、婚約を破談にさせたことを、ね」
「…………」
今度は俺が首をかしげる。
おそらく、不思議そうな顔をしていたに違いない。
ええっと、そんなことがあったのか?
記憶を必死で辿った。
………………………………………ああ!
そこで思い出した。
俺の畑の大事な作物の種たちなんかを無造作に扱ったからお灸を吸えてやったやつだ。名前すら覚えていないけど、確かにユリスの婚約者だったと思う。
だけど、あのときに俺がやった行動の、俺自体の認識と、ユリスの言い方から受ける印象がえらく違うんだが……。
「だから、あなたには、これを受ける義務があるのよ」
「いやいやいや、待てよ。確かに俺は、あのときやつをボコったけど、それでお前もよかったろ? どうして、俺が悪いみたいになっているわけ?」
「それと、これとは別な話しよ」
――そんな横暴な!
「あのときのことは、私としては大変感謝をしております」
ユリスの横に立つ従者ミアは、ユリスの対応とはまったく逆に、頭を下げた。
それに、俺は少し戸惑う。
別に、感謝されたくてやったわけじゃない。いや、感謝されて、悪い気はしないけどね。
「それと、お嬢様も、実は内心では心からあなたに感謝をしておりまして、本当は――」
「ああああ! あああああああ!!」
突然のユリスの奇声祭りが始まった。
「あああ!! はい! それはもう終わり!! とりあえずヒカル! 明日の夕刻から、五人の私の婚約者候補と勝負をしてもらうからね」
「いや、普通に嫌なんで帰りますけど」
「実は、あの畑一体の土地を私買い占めたのよ」
――何!?
「もしも、今回のことで大きな功績を挙げることができたら、もう少しあの畑を拡大できるかもね。それにこちらの家の人間を数名貸し出せるかもしれないわねー」
――この野郎……。
ユリスは、白々しい表情を見せながら、優雅にティーカップを傾けていった。
「それじゃ、頼んだわよ」
「……わかったよ……」
畑の件を出されては、俺に拒否する理由はない。
俺の夢は、この国の作物をすべて、俺の作った無肥料無農薬作物で埋め尽くすことだ。
それができるなら、多少貴族の言いなりくらいなってやるさ。
「そういえば、今日、シャルは?」
「ああ、あいつなら、今は自分の寮に戻ってるよ」
「あら、どうして? あそこに荷物なんかほとんどないでしょう?」
――荷物が全部こちらにあることは間違っているんだけどな。
「ちょっとな。いろいろあって、こっちに来る前にお風呂に入らせたんだよ。汚くなったからな」
誰があんな埃塗れの、白いやつを家に入れるというのか、しかも手は脂汗というおじさんエキスで一杯だ。
「シャルはもう穢れちまったのさ」
「え?」
「あいつが戻ってきたら、どうか何も言わずに抱きしめてやってくれ」
「え、何? 何があったの!?」
「じゃあ、俺は寝る」
「ちょ、ちょっと!!」
俺は、自分の部屋に入った。
ユリスが何か後ろでいろいろと言っていてたすべて無視した。
ベッドに向かって背中からダイブする。手を頭に組んで天井を見た。
そして、先ほどの出来事を振り返ってきた。
前の勇者時代の世界の魔女が一人、転移してきたわけだ。
一応、あの幼女が目的地としていた占いの館は、先ほど潰しておいた。全員、聖騎士に突き出しておいたので、幼女が召還魔術を行うことは当分はできないはずだ。
だが、もしも、召還魔術を成功させたとしたら、少し問題が起きる。
人を一人召還する召還魔術はもちろん黒魔術の部類になるわけだが、もしも、それが行使された場合、俺の身体に黒魔術が流れ込んできて、俺を強制転移させることになるわけだが、俺がそれを強制拒否した場合。
巨大な力が俺から漏れ出ることとなる。
そうすると、この世界の猛者どもに、俺の存在が知れ渡ることとなってしまう。
それは最大限阻止しなければならない重大事項だ。
シャルには、あの後、ちゃんと説明をしてやったから、あいつにも働いてもらわないとな。
――でも、あの野郎、馬鹿だからなー
あいつが使えるのかどうかは、問題だ。




