第五話 元魔王は容赦がない件について(仮)
「もう! 一体どうしてくれるのよこの格好! もう本当にびっくりよ。まさか、本気で飛ばすなんてね! おかげでこっちはいろいろと大変だったんだからね!」
見るからに、私怒ってます。
という感じで、シャルが近づいてくる。
それはもう大きく地団駄を踏む感じでだ。
――うわあ、こりゃいったいどうしたもんかなあ。
まさにカオス! その言葉が当てはまる状況だろう。
「まったく、よくもやってくれたわね!!」
シャルからは、これまた禍々しい魔力が漏れ出していた。
「いや、シャル。まずは少し落ち着け」
――今お前に構っている場合ではない。
シャルは、そんな俺の気など意に介さず。
その顔を、俺の鼻先まで近づけてきた。
いや、粉が付くから、まじやめて。
「この粉、なんだと思う?」
「……小麦粉とか?」
「違うわよ。私が落ちた場所、そこはなんと――三百年も掃除がされていないという家だったのよ」
――ますはその情報源はどこですかね?
「そこの煙突に綺麗に九十度の角度で垂直に突き刺さったわけ、まるで、もう一つの煙突ができたみたいな感じによ!」
「それはわかりやすい説明だな」
「そしたら、もう! 大変!! 煙突の中は埃なのか何なのかわからない粉だらけだし、そこから抜け出すのに、この手のせいで!!」
と、
シャルは俺に、両手を突き出してくる。
未だにテッカテカなその手。
――おっさん達の執念すごいな。自分が触れた証を残したかったんだろうな……。
「このぬめりの所為で、抜けない抜けない! あげくのはてに、周りの人から、スカートが翻って見えているパンツを永遠と見られて笑われるという地獄を味わったわ」
「永遠って、お前、まだちょっとした時間経ってないだろう。サルには時間がわからないのか」
「永遠に感じるほどのものだったって言いたいの!! ってかサルじゃない!!」
地団駄を踏む。
地割れが起きる。
それがデジャブだった。
「あんた達何やってるんだい!!」
俺たちの会話を、律儀に少し待っていてくれた幼女からの、可愛らしい叫び声が届く。
「デュラハン!! 早くやっちまいな!」
『ええ……、もう避けられるのしんどいわー。それになんか、一人増えてるんですけど、あれは聞いてないなー』
「もう、報酬を増やすから!!」
『じゃあ、脱ぎたてパンツ二枚追加で』
「わかったから、早く!!」
――どんな取引してんねん。デュラハンのそれは許容できるんかい!
『よっしゃああああああ!! 脱ぎたてパンツ二枚いいいいいいい!!』
いきなりテンションが振り切ったデュラハンは、剣をこちらに突き立てる。
『貴様らの命は、パンツ二枚だ』
ヒヒーン!!
――馬も、そういう趣味か!!
デュラハンが、こちらに突進してくる。
脱ぎたてパンツ二枚の影響なのか、先ほどよりも速い。
「おい、シャル。とりあえず話しは後だ。あいつをどうにかするぞ」
「あれ、なんなのよ?」
「いや、ちょっとな……」
「ふーん、まあいいわ。とりあえずあいつをどうにすればいいのね」
シャルは俺をいぶかしみながら、一歩前に出た、デュラハンと対峙はしてくれるらしい。
『脱ぎたてえええええええ…………………え!?』
デュラハンは、シャルを射程に捉えて、今にも真っ二つにせんと振りかぶり、そこで動きをやめた。
『そ、そんな……。まさか、あなた様がここに……!?』
「……………」
「どうしたの? デュラハン!」
そこで、俺はあることに気が付く。
そういえば、シャルは元魔王。
それに、魔力な質としては、魔王のそれだ。
デュラハンがどれほどの魔物と言ったって、所詮は魔物。
結局は魔王の僕ということになる。
となると、デュラハンからすれば、今、剣をつきたてているのは、主人――上司というわけだ。
デュラハンは馬から下りて、剣を置き、ひざまずく。
隣の馬も、ひれ伏す体勢となった。
『この魔力間違いありません。あなた様は――』
「てい!」
ズドーーーーーーーン!!
と言う音とともに、シャルは、自らの前に膝を付いて仰々しく挨拶をしようとしたデュラハンが脇に抱えている頭に、強烈な鉄拳を食らわした。
デュラハンの頭が粉々にくだけ散る。
その瞬間に、彼の身体も、馬もゆっくりと消えていった。
――え??
そこだけは、俺と幼女の気持ちは通じ合ったと思う。
「お、おいシャル。お前……」
「よし、邪魔者はいなくなった。ヒカル!」
そう言って、振り返るシャルさん。
あんた鬼だよ。
自分を慕ってきた部下を、子供を容赦なくぶちのめしやがった。
こんなの、どんなブラック企業でもない仕打ちだわ。
だって、挨拶しただけだよ?
そりゃ、最初気が付かずに剣を向けたけど、そりゃ、こんな手をベトベトにした白い女を、まさか自分の主人である魔王だとは思わないものね。
――ご愁傷様です。
心の中で静かに両手を合わす。
「ちゃんと、今回のことには謝礼を出してもらわないと気が済まないわ!」
シャルは、先ほどのデュラハンのことなどすでに眼中になく。
俺から謝礼を貰うことしか考えてなかった。
――切り替えが早いってレベルじゃないな。
「ま、待ちなさい!!」
だが、問題はデュラハンではないのだ。
そう。
俺が対峙していたのは、あくまで――
「よくもやってくれたわね!!」
この小さな幼女だった。
ここで、俺は思った。
確かに、スターたるもの、ファンは大切にはしないといけないとは思う。
だけどさ。
人気がありすぎると、触れ合うことも難しくなるのがスターだろ?
スタッフとかに守られるものだろ?
――よし、シャルにすべて任せよう。
「シャル」
幼女の声に振り返っていたシャルに話しかける。
「あの幼女が、要る限り。お前の謝礼は出せない。これは決定事項だ」
「なんですって?」
「でも、俺は女性に手を出すなんてことできない。しかも相手が幼女ならなおさらだ。となると――この状況を打破できるのはお前しかない」
「わかったわ。その代わり、謝礼はちゃんと出してくれるんでしょうね?」
――ふん、ちょろいな。
「ああ、もちろんだ。でもあの子には――っておい!!」
シャルは俺の続きの言葉を聞かずに、走り出した。
行動が早すぎるのも考え物だ。
一瞬で、シャルは幼女の下にたどり着く。
「な、何!?」
そして、そのぬめぬめの手で、相手の腕を掴む。
どうやら、何かを掴む行為ができるほどには、ぬめりが落ちているらしい。
「いきなり出てきて、あんたは一体――」
「おい! シャル!! その子は!」
そういう幼女と俺の言葉など、まったく聞かずに、シャルは、その幼女を自分が投げられた方角と同じ方角に、ぶん投げた。
「嫌あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
という叫び声とともに、幼女は、ミサイルのように、角度四十五度で飛んでいった。
――こいつは一体、何を考えているんだ?
まだ、相手の正体がわかっている俺と同じなら、相手が本物の幼女ではないので、多少なら手荒なマネができるのはわかる。
だが、おそらくシャルは知らないはず。
と、なると、幼女を幼女だと認識しながら、投げ飛ばした。
と、なるわけだ。
――マジでヤベーやつじゃん……。
これが、元魔王ですか……こわ。
でもまあ――
「ふう」
と、仕事を終えたという顔をしてシャルが戻ってくる。
「これで――」
ズコン!!
「痛っ!!?? 何するのよ!?」
「それはこっちのセリフだ! あの幼女にはいろいろと聞きたいことがあったんだ! 何勝手なことをしてんだよ!」
「だって、ヒカルがあの幼女がいると駄目だって」
「話しを最後まで聞け! もう謝礼はなしだ!」
「ええ!! そんなあー……」
――俺は相手が元魔王とは知らないし! こいつはただのサルだと認識しているし!!
正直、これで謝礼の話しが飛んだので、一々考えなくて済むので、ラッキーと思っている俺も居た。
久しぶりの投稿で、申し訳ないです!




