#13 リペア――個性
二体の修理ドロイドは、歪んでひしゃげた船長室の扉前で停止すると、三度ビープ音を鳴らした。
「パードン・ミー。これより扉の交換を行います。大きな音がしますので注意してください」
そう電子音声で伝えてきた。
シレーヌは長椅子を立って、室内から大きな声で返答した。
「それは構わないけど、火花は駄目よ。もう火災は懲り懲りなの。手荒なやり方は極力避けてね。多少時間がかかっても構わないわ。安全第一で!」
「かしこまりました」
返答した二体のドロイドは、そそくさと修理をはじめた。
扉の取り外しにはそう時間はかからなかった。それが済むと、変形したドア枠の調整に落ち着きなく動くドロイドの姿を目にとめたシレーヌは、それにエキュルイユと名付け、二本のアームで分厚い扉を安々と運んできたドロイドにゴリラと名付けた。
シレーヌは修理の様子を腕組みしてしばらく眺めていた。
「宇宙機構のドロイドは味気がなかったわね。量産性って面でいえば、あれでいいんだろうけど。――何にしてもこの船は特殊ね。すべてがネライダとの連携を考慮されているからだけど、一体たりとも同じ型のドロイドがないというのは、不便といえば不便。でもだからこそ味もある。それに技術は日進月歩だから、わたしはこっちのほうが好み。――ちょっと、エキュルイユが困ってるじゃない。ゴリー、ぼけっとしてないで、少しは手伝いなさいよ!」
「ミー?」
二体のドロイドが停止してすっとんきょうな電子音声をあげた。
「扉を運んできたあなたよ。図体の大きいほう」
「了解しました」
ゴリーはそういうと、扉をそっと床に下ろして、エキュルイユの手伝いをはじめた。
そのやりとりは、カルマールと交わした漫才のような会話の記憶を、シレーヌのなかに呼び起こした。
「三度のビープ音は、近くにいる人の指示を最優先するシグナル。二度はネライダの指示に従っているサイン。一度は彼ら自身の自律回路にそった行動。そういう目で見ると、カルマールは随分自律的だったのね。――ただ、人間やほかのドロイドを感知する度にピーピーいうのは、少々煩いわね。でも、良くできた設計よ。あの人の才能の片鱗がうかがえる。宇宙機構はデータ偏重主義だったけど。――さて、わたしも仕事にとりかからなくっちゃ」
そういうとシレーヌは室内へと踵を返し、これまでの計画やルフトとの通信の総点検に取りかかった。
しばらくすると、修理の音がやんで、三度ビープ音がした。
「エクスキューズ・ミー。修理が完了しました」
扉の外から電子音声がした。
「わかったわ。持ち場に戻るか、あるいはネライダに次の指示を仰いでちょうだい」
そうはいったものの、シレーヌはカルマールに襲われた場面が突然想起し、何かを思いだしたように席を立った。そのまま扉の前までいくとドアは以前のようにスライドして開いた。
外した扉を小脇に抱えたドロイド、それに付き添う小柄なドロイドの後ろ姿が見えた。
「ちょっと待って、あなたたち。この先の緊急用船内通話器、"SC-04"が壊れたままなの。帰りがけにそれも修理していってくれる? 火花は厳禁。ユニットごと交換するのよ」
「かしこまりました。番号は"SC-04"ですね?」
「ええ、"SC-04"よ。ネライダからその指示はあったの?」
「いいえ、ありません」
「彼、忙しいからね。時々大事なことを忘れるのよ。船長が怒ってたってしっかり伝えてね」
「はい、わかりました。他に御用は?」
「ないわ、もう行っていいわ」
二体のドロイドは、三度ビープ音を鳴らすと、シレーヌからの指示を承諾したことを知らせ、去っていった。
それから数日のあいだ、彼女は自室周辺を歩くリハビリと総点検に没頭した。
《リヒト・スヴィエート号》は、とても安全といえる状況にはなかったが、船内各所には久しぶりに穏やかな時間が流れていたのだった。




