第59話 そのようなお話がございましたわね
アストレア聖域領、執務室。
公爵、兄、母が席についている。
珍しく、全員が揃っていた。
「……確認事項がある」
公爵が言う。
声は低い。
だが、どこか疲れている。
「何でしょう」
兄が応じる。
「……婚約だ」
一拍。
「セリアの」
沈黙。
「……」
兄が止まる。
思考が数秒遅れる。
「……ああ」
ようやく出る。
「第三王子殿下」
「そうだ」
「……」
母が首を傾げる。
「まあ」
一拍。
「そのようなお話がございましたわね」
完全に同じ状態だった。
「……」
公爵が目を閉じる。
「……全員忘れていたな」
「はい」
兄が即答する。
「重要度が低下していました」
「……低下どころじゃないだろ」
カイルが小さく呟く。
「消えてたぞ」
「……」
公爵が机を指で叩く。
「現状を整理する」
一拍。
「聖域領は独立した」
「はい」
兄が頷く。
「神格存在が常駐している」
「はい」
「異種族が流入している」
「はい」
「……」
一瞬の間。
「……この状態で」
公爵が言う。
「どこかの国の王族と婚姻関係を結ぶとどうなる」
問い。
だが。
答えは明確。
「……干渉されます」
兄が即答する。
「王国の影響力が入り込む可能性があります」
「……」
「宗教的にも問題になります」
母が穏やかに言う。
「神々がいらっしゃいますもの」
「……」
公爵が頷く。
「……外交的には」
「危険です」
ノエルが静かに言う。
「完全に」
「……」
沈黙。
そして。
「……破棄で良くないか」
公爵が言う。
軽く。
だが。
完全に合理。
「……異議はありません」
兄が即答する。
「同じく」
ノエル。
「問題ございませんわ」
母。
即決だった。
「……」
カイルが小さく言う。
「……軽いな」
「はい」
ノエルが頷く。
「合理的です」
その時。
「お父様」
セリアが入ってくる。
いつも通りに。
穏やかに。
「何だ」
公爵が問う。
「何かございましたか?」
「……確認だ」
一拍。
「婚約の件だが」
「はい?」
セリアが首を傾げる。
「第三王子との」
一瞬。
完全に止まる。
思考が。
そして。
「ああ」
小さく声が出る。
「そのようなお話がございましたわね」
沈黙。
全員同じ反応だった。
「……どうする」
公爵が問う。
「破棄するが」
「はい」
即答だった。
「問題ございませんわ」
一切の迷いなし。
「……理由は」
兄が聞く。
「今の方が楽しいですもの」
それだけだった。
完全に。
「……」
公爵が小さく息を吐く。
「……決まりだな」
「はい」
兄が頷く。
「王国には」
一拍。
「後で説明すればよろしいかと」
「……」
誰も否定しない。
その時。
「……なあ」
カイルが言う。
「何だ」
「第三王子、どうなる」
沈黙。
そして。
「……知らん」
公爵が答える。
「……まあ」
母が微笑む。
「お強い方なのでしょう?」
「……はい」
兄が頷く。
「天才と聞いています」
「でしたら」
一拍。
「何とかされるのではないかしら」
完全に他人事だった。
「……」
誰も反論しない。
その中心で。
セリアだけが。
いつも通りに微笑んでいた。
「それより」
一拍。
「次はどちらへ参りましょうか」




