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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第60話 やはり、ここに来ていたか



 アストレア聖域領、外縁。


 一人の男が立っている。


 簡素な装い。


 護衛もいない。


 だが。


 隙がない。


「……」


 男が一歩踏み出す。


 空気が変わる。


 だが。


 止まらない。


「……侵入は可能か」


 小さく呟く。


 確認するように。


「可能だな」


 結論。


 そのまま歩く。


 神域の中へ。


 違和感はある。


 だが。


 拒絶はない。


「……」


 少しだけ笑う。


「許可されているか」


 理解が早い。


 中央。


 大樹の下。


 セリアがいる。


 ゴブリンと話している。


 穏やかに。


 変わらず。


「やはり、ここに来ていたか」


 男が言う。


 自然に。


 当然のように。


 セリアが振り返る。


 一瞬。


 思考が止まる。


 そして。


「あら」


 小さく声が出る。


「どちら様でしたかしら」


 沈黙。


 完全な沈黙。


「……」


 カイルが顔を覆う。


「……忘れてるな」


「はい」


 ノエルが頷く。


「完全に」


 男が一瞬だけ目を閉じる。


 だが。


 すぐに開く。


「……そうか」


 納得する。


 怒りはない。


 動揺もない。


「改めて名乗ろう」


 一歩進む。


「第三王子」


 一拍。


「アルクスだ」


 空気が整う。


 ただの名乗り。


 だが。


 重さがある。


「ああ」


 セリアが頷く。


「そのようなお話がございましたわね」


 完全に思い出した顔。


「……」


 アルクスが小さく息を吐く。


「忘れていたな」


「はい」


 即答だった。


 迷いなく。


「……そうだろうな」


 否定しない。


 それでいい。


「それで」


 セリアが言う。


「何かご用件がございましたか?」


 完全に通常対応。


「……婚約の件だ」


 一拍。


「破棄するとの話を聞いた」


「はい」


 セリアが頷く。


「問題ございませんわ」


 即答。


「……」


 アルクスが少しだけ空を見る。


 そして。


「……そうか」


 短く答える。


 だが。


 そこで終わらない。


「ならば」


 一歩進む。


「別の形にしよう」


「はい?」


 セリアが首を傾げる。


「婚約ではない」


 一拍。


「同盟だ」


 空気が止まる。


「……」


 レオネルが目を細める。


「……なるほどな」


 小さく言う。


「……はい」


 ノエルが頷く。


「最適解です」


「この場所は」


 アルクスが続ける。


「国家ではない」


「だが」


 一拍。


「無視もできない」


「……」


「ならば」


「対等に立つしかない」


 結論だった。


 極めて合理的。


「まあ」


 セリアが微笑む。


「よろしいですわ」


 あっさりと頷く。


「……いいのか」


 カイルが小さく言う。


「はい」


 ノエルが答える。


「対等関係です」


「最も安定します」


 アルクスがセリアを見る。


 まっすぐに。


「条件は一つ」


「何でしょう」


「変わらないことだ」


 一拍。


「そのままでいろ」


 それだけだった。


「はい」


 セリアが頷く。


「そのつもりですわ」


 完全に一致する。


「……」


 エル・セラフィアが静かに見る。


 アウレリオンも同じ。


 否定はない。


 むしろ。


「……適合している」


 小さく呟く。


「……ああ」


 もう一人の神が応じる。


「人としては最適だ」


「……なあ」


 カイルが言う。


「何だ」


「こいつだけ普通に会話してるぞ」


「……」


 レオネルが小さく笑う。


「普通じゃないからな」


「……」


 アルクスが振り返る。


 領地を見る。


 神域。


 異種族。


 大樹。


 すべてを。


「……面白いな」


 小さく呟く。


「ここは」


 一拍。


「退屈しない」


 それが評価だった。


 その中心で。


 セリアだけが。


 いつも通りに微笑んでいた。


「では」


 一拍。


「これからもよろしくお願いいたしますわ」

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