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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第55話 このままでは管轄外になりますので



 アストレア公爵領、執務室。


 机の上に地図が広げられている。


 公爵と、兄。


 そして数名の側近。


「……範囲は」


 公爵が問う。


「拡大中です」


 ノエルが答える。


「昨日比で約一割増」


「……早いな」


「はい」


 一拍。


「神域の拡張としては、異常です」


「……」


 沈黙が落ちる。


 地図の上には、薄く色が塗られている。


 公爵領の一部。


 だが。


 その境界が曖昧になっている。


「……境界が成立していないな」


 兄が言う。


「はい」


 ノエルが頷く。


「地理的区分ではなく、概念的区分に変化しています」


「……つまり」


 公爵が言う。


「王国の領地ではなくなりつつある」


「その通りです」


 即答だった。


「……」


 誰も否定しない。


 できない。


「……税は」


 公爵が問う。


「算定不能です」


「理由は」


「価値が固定されていないためです」


 一拍。


「神域内の資源は、通常の経済モデルに適合しません」


「……」


 公爵が目を閉じる。


「……軍事は」


「不要です」


「理由は」


「侵入が成立しないためです」


「……」


 すべてが崩れている。


 だが。


 秩序はある。


「……王国の法は」


 公爵が静かに言う。


「適用外になりつつあります」


 ノエルが答える。


「完全ではありませんが」


「時間の問題です」


「……」


 長い沈黙。


 そして。


「……決めるか」


 公爵が言う。


 兄が顔を上げる。


「何をですか」


「独立だ」


 短く。


 明確に。


 空気が止まる。


「……理由は」


 兄が問う。


「このままでは管轄外になる」


 一拍。


「ならば」


「先に切り分ける」


 完全な合理。


「……」


 兄がゆっくり頷く。


「……そうですね」


 否定する理由がない。


「王国側も」


 一拍。


「対応できないでしょう」


「できん」


 公爵が断言する。


「枠組みが違う」


「……」


 側近たちも黙っている。


 反対はない。


 できない。


「名称は」


 兄が問う。


「聖域領とする」


 即決だった。


「……分かりやすいですね」


「機能をそのまま示す」


「……はい」


 その時。


「失礼いたします」


 執事が入ってくる。


「何だ」


「セリア様が外に」


 視線が向く。


 窓の外。


 セリアがゴブリンたちと話している。


 楽しそうに。


 変わらず。


「……」


 公爵が小さく言う。


「……原因はあれだな」


「はい」


 ノエルが頷く。


「完全に」


「……だが」


 一拍。


「止める理由はない」


「はい」


 兄が頷く。


「むしろ」


 一拍。


「利用すべきです」


「……」


 公爵がわずかに笑う。


「……ああ」


 決まる。


「王国へ通達する」


 短く言う。


「アストレア公爵領は」


 一拍。


「聖地として独立するとな」


 静かな宣言。


 だが。


 覆らない。


「……なあ」


 カイルが小さく言う。


「何だ」


「独立ってそんな軽く決めるもんか」


「……通常は違う」


 レオネルが答える。


「だが」


 一拍。


「今回は例外だ」


「……」


 誰も否定しない。


 セリアが振り返る。


「お父様」


 穏やかな声。


「はい」


 公爵が答える。


「少し広くなりましたわ」


 それだけだった。


 その一言が。


 すべてを説明していた。

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