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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第54話 考えるだけ無駄だと判断した



 アストレア公爵領。


 屋敷の執務室。


 静かだった。


 外では、ゴブリンたちが動いている。


 その奥には、大樹。


 さらに奥に、神域。


「……」


 公爵が書類を見ている。


 視線は動いている。


 だが。


 内容は入っていない。


「……父上」


 兄が声をかける。


「何だ」


 短い返答。


「確認ですが」


 一拍。


「庭にゴブリンがいます」


「知っている」


 即答だった。


「その奥に大樹があります」


「知っている」


「さらに神がいます」


「知っている」


「……」


 兄が言葉を止める。


 それ以上の確認が意味を持たない。


「……どうしますか」


 問いとしては正しい。


 だが。


 答えは決まっている。


「何もしない」


 公爵が言う。


 短く。


 確定的に。


「……理由は」


「考えるだけ無駄だ」


 一拍。


「理解できない」


 さらに一拍。


「だが」


 視線が上がる。


「問題は発生していない」


 それが結論だった。


「……」


 兄が静かに頷く。


 完全に納得しているわけではない。


 だが。


 合理的ではある。


「では」


 一拍。


「受け入れますか」


「すでに受け入れている」


 修正される。


 認識が。


「……そうですね」


 兄が小さく笑う。


「最初から」


「そうだ」


 執務室の扉が開く。


 母が入ってくる。


「まあ」


 外を見る。


「賑やかでよろしいですわね」


 いつも通りだった。


 何も変わらない。


「……母上」


 兄が言う。


「何か思うところは」


「特にございませんわ」


 即答。


「楽しそうですもの」


 それが評価だった。


 感情ではなく。


 印象。


「……」


 兄が少し遠い目をする。


「……諦めましたか」


「いいえ」


 母が首を傾げる。


「最初から気にしておりませんわ」


 それが最も強い。


 完全な例外。


「……」


 公爵が小さく息を吐く。


「……あれが正解かもしれんな」


「はい」


 兄が頷く。


「考えない方が楽です」


 その時。


「失礼いたします」


 執事が入ってくる。


「報告がございます」


「言え」


「ゴブリンが農作業を開始しました」


 沈黙。


「……は?」


 兄が固まる。


「畑を耕し、種を植えております」


「……」


 公爵が目を閉じる。


 一瞬。


 そして。


「……問題は」


「ございません」


「では放置しろ」


 即断だった。


「承知いたしました」


 執事が下がる。


「……なあ」


 兄が言う。


「何だ」


「ゴブリンが農業するって何だ」


「……分からん」


 公爵が答える。


「だが」


 一拍。


「害はない」


「……はい」


 兄が頷く。


 完全に納得したわけではない。


 だが。


 それで十分だった。


 その時。


「お父様」


 セリアが入ってくる。


 いつも通りに。


 穏やかに。


「ゴブリンの方々、よく働いてくださっていますわ」


「……そうか」


 公爵が答える。


 短く。


 それ以上は言わない。


「何かご不便はございませんか?」


 セリアが問う。


「ない」


 即答だった。


 完全に。


「そうですか」


 セリアが微笑む。


「でしたら、よろしいですわ」


 それで終わる。


 すべてが。


「……」


 兄が小さく言う。


「……父上」


「何だ」


「もう、どうでもよくないですか」


 沈黙。


 そして。


「……ああ」


 公爵が頷く。


「どうでもいい」


 それが結論だった。


 理解を放棄する。


 だが。


 機能は維持する。


 それが。


 この家の最適解だった。

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