表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/64

第53話 少し賑やかになりますわね



 アストレア公爵邸、正門前。


 朝。


 荷馬車が並んでいる。


 使用人たちが静かに動いている。


 だが。


 運んでいるものは少ない。


「……これだけか」


 カイルが呟く。


「はい」


 ノエルが頷く。


「物理的な荷物は最小限です」


「……じゃあ何が引っ越す」


「環境です」


 一拍。


「そのまま」


「……」


 カイルが空を見る。


 否定できない。


 庭の中央。


 大樹がそびえている。


 昨日よりも、さらに目立つ。


「……あれもか」


「はい」


「対象に含まれます」


 その時。


「お待たせいたしました」


 セリアが現れる。


 いつも通りに。


 変わらず。


「準備は整っておりますわ」


「……本当に行くのか」


 レオネルが問う。


「はい」


 セリアが頷く。


「領地の方が広いですもの」


 理由はそれだけ。


「……」


 誰も反論しない。


 できない。


「では」


 セリアが言う。


「参りましょう」


 その一言で。


 空気が動く。


 ゴブリンたちが整列する。


 静かに。


 迷いなく。


 セレスが一歩前に出る。


「……移動開始」


 短い宣言。


 エル・セラフィアとアウレリオンが、静かに立つ。


 その瞬間。


 庭の空気が変わる。


 揺らぐ。


 圧が収束する。


 広がっていたものが、まとまる。


「……来るぞ」


 カイルが言う。


 地面が揺れる。


 音はない。


 だが。


 確実に“切り離される”。


 王都公爵邸の庭。


 その一部が。


 空間ごと、持ち上がる。


「……」


 誰も声を出さない。


 出せない。


 大樹。


 地面。


 空気。


 すべてが一体となって。


 移動する。


「まあ」


 セリアがそれを見て言う。


「運びやすくなりましたわね」


 評価がそこだった。


「……運んでるのはあっちだ」


 カイルが小さく言う。


 次の瞬間。


 空間が閉じる。


 王都に残るのは。


 元の庭。


 だが。


 違和感だけが残る。


「……軽いな」


 レオネルが言う。


「はい」


 ノエルが頷く。


「“抜けています”」


「……」


 王都の空が、わずかに揺れる。


 何かがいなくなった証拠。


 一方。


 アストレア公爵領。


 広い平地。


 何もないはずの場所。


 空間が歪む。


 そして。


 “現れる”。


 庭が。


 そのまま。


 大樹を中心に。


 完全な形で。


「……」


 領民たちが固まる。


 理解が追いつかない。


「……来たな」


 ノエルが静かに言う。


「はい」


「完全移行です」


 セリアが歩き出す。


 そのまま。


 自然に。


「少し賑やかになりますわね」


 穏やかな声。


 ゴブリンたちが広がる。


 新しい土地へ。


 恐れはない。


 もうない。


「……なあ」


 カイルが言う。


「何だ」


「引っ越しって何だ」


「……分からん」


 レオネルが答える。


「だが」


 一拍。


「成立している」


 それが全てだった。


 大樹の葉が揺れる。


 風が通る。


 新しい場所で。


 同じように。


 神域は、そこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ