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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 玉響すばる


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第44話 こちらが聖地であると定義されておりますので



 アストレア公爵邸の正門前。


 朝から人の列ができていた。


 静かな整列。


 騒ぎはない。


 だが、規模だけが異様だった。


「……何だこれは」


 レオネルが低く言う。


「巡礼者です」


 ノエルが即答する。


「……は?」


 理解が追いつかない。


「神竜エル・セラフィアを崇拝する国家より派遣されています」


 一拍。


「公爵邸を“聖地”と定義したとのことです」


 沈黙。


 カイルが空を見る。


「……やっぱり来たか」


 予測はしていた。


 だが。


 早すぎる。


「……止めるか」


 レオネルが言う。


「不可能です」


 ノエルが首を振る。


「理由は」


「正当性があるためです」


「……何の」


「彼らの中では」


 一拍。


「完全に成立しています」


 否定できない。


 概念として。


 すでに固定されている。


 門が開く。


 代表者が進み出る。


 白い装束。


 整った所作。


 宗教的権威を感じさせる立ち振る舞い。


「我々はエル・セラフィアの御名のもとに参上いたしました」


 静かな声。


 だが揺るがない。


「……目的は」


 レオネルが問う。


「巡礼」


 即答だった。


「そして」


 一拍。


「神の同盟者への謁見」


 空気が止まる。


「……誰のことだ」


「セリア・アストレア公爵令嬢」


 迷いなく答える。


「……」


 否定できない。


 事実として。


 成立している。


 その時。


「ごきげんよう」


 セリアが現れる。


 いつも通りに。


 何も変わらず。


「本日はお越しいただき、ありがとうございます」


 完璧な挨拶。


 場が整う。


「……」


 巡礼者たちが一斉に頭を下げる。


 深く。


 迷いなく。


「神の同盟者に、敬意を」


 その言葉が。


 完全に定義する。


「まあ」


 セリアは少しだけ首を傾げる。


「同盟者、ですの?」


「はい」


 代表者が頷く。


「神竜エル・セラフィアが認めた存在」


「ゆえに」


 一拍。


「我々にとっては神と同位」


 静かな宣言。


 だが、絶対的。


「……」


 レオネルが目を閉じる。


 終わった。


 完全に。


「そうですの」


 セリアは小さく頷く。


 否定しない。


 理解もしない。


 ただ、受け入れる。


「では」


 微笑む。


「お茶でもいかがかしら」


 完全に日常の流れ。


「……」


 巡礼者たちが一瞬だけ止まる。


 だが。


「……光栄です」


 応じる。


 それが正解だと分かっている。


 庭園。


 古竜セレスが人の姿で立っている。


 エル・セラフィアが静かに座っている。


 その中央に。


 セリアがいる。


 巡礼者たちが席に着く。


 緊張はない。


 恐怖もない。


 ただ。


 “正しい場所にいる”という確信。


「……なあ」


 カイルが小さく言う。


「何だ」


「宗教が出来たな」


「……ああ」


 レオネルが頷く。


「しかも」


 一拍。


「完成形でな」


 初期段階ではない。


 すでに体系化されている。


 名前。


 対象。


 聖地。


 すべて揃っている。


「……」


 ノエルが静かに言う。


「広がります」


「……止まるか?」


「いいえ」


 即答。


「加速します」


 セリアは紅茶を注ぐ。


 巡礼者へ。


 神竜へ。


 古竜へ。


 同じように。


 分け隔てなく。


「どうぞ」


 それだけ。


 神への供物でもなく。


 儀式でもない。


 ただのもてなし。


「……」


 代表者がそれを受け取る。


 震えはない。


 迷いもない。


「……理解しました」


 小さく呟く。


「何をだ」


 カイルが聞く。


「神の同盟者とは」


 一拍。


「神を神のままにしない存在」


 沈黙。


 その定義は、正確だった。


「まあ」


 セリアが微笑む。


「難しいことは分かりませんけれど」


「皆さまが落ち着いてくださるのでしたら、それでよろしいですわ」


 それが全て。


 その一言で。


 宗教は完成する。


 静かに。


 確実に。


 この場所から。

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