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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第43話 そのお名前で呼ばれているようですわ



 アストレア公爵邸の応接室。


 静かな午後。


 セリアは穏やかに紅茶を楽しんでいる。


「エル・セラフィア、こちらも美味しいですわ」


 自然な呼びかけ。


 何の違和感もなく。


「……問題ない」


 神竜が応じる。


 そのやり取りは、ただの日常だった。


 だが。


 変化は、外で起きていた。


 王都。


 市井の一角。


「……今、何て言った?」


「知らん……だが、聞こえた」


 風が運ぶ。


 音ではない。


 認識。


 言葉としてではなく、意味として。


「……エル……?」


「……セラフィア……?」


 誰かが口にする。


 意図せず。


 意味も分からず。


 だが。


 発音できてしまう。


 王城。


「……報告」


 側近が静かに言う。


「不特定多数において、同一語句の認識を確認」


「語句は」


 一拍。


「エル・セラフィア」


 空気が止まる。


「……拡散経路は」


「不明」


「発生源は」


「……推定、公爵邸」


「……」


 レオネルが目を閉じる。


 理解する。


「……呼んだな」


 短く呟く。


 それだけで十分だった。


 隣国。


「……同様の現象を確認」


「名称は」


「エル・セラフィア」


「……言語差異は」


「なし」


「……統一されているな」


 誰も教えていない。


 だが。


 全員が同じ発音をする。


 同じ意味で。


「……定義が先にある」


 宰相が言う。


「言葉ではなく、概念だ」


「……」


 沈黙。


「……これは」


 一拍。


「共有されているのか」


「はい」


「強制的に」


 否定できない。


 現実として。


 アストレア公爵邸。


「……増えてるな」


 カイルが小さく言う。


「はい」


 ノエルが即答する。


「外部への影響が確認できます」


「……どういうことですか?」


 リリィが不安そうに聞く。


「名前が」


 一拍。


「定着しています」


「……」


 言葉が続かない。


 理解したくないからだ。


「エル・セラフィア」


 セリアが自然に呼ぶ。


 何の意識もなく。


「はい」


 神竜が応じる。


 その瞬間。


 外の空気が、わずかに整う。


 揺らぎが消える。


 乱れが均される。


「……」


 レオネルが静かに言う。


「……鍵だな」


「はい」


 ノエルが頷く。


「名前が」


 一拍。


「トリガーになっています」


「……」


 カイルが空を見る。


「……やばいな」


「はい」


「完全に」


 もう止まらない。


「どうかなさいました?」


 セリアが首を傾げる。


「何でもない」


 レオネルが答える。


「そうですの?」


「何でもない」


 繰り返す。


 説明しても意味がない。


 理解の外にあるからだ。


「まあ」


 セリアは微笑む。


「でしたら、よろしいですわ」


 それで終わる。


 外では。


 誰かが呟く。


「エル・セラフィア」


 意味は分からない。


 だが。


 安心する。


 不思議と。


「……何だ、これ」


 別の誰かが言う。


「分からん」


「だが」


 一拍。


「落ち着くな」


 それが効果だった。


 名前が広がる。


 認識が広がる。


 意味が固定される。


 世界が。


 静かに。


 同じ基準へと寄っていく。


「そのお名前で呼ばれているようですわ」


 セリアが何気なく言う。


「……そうか」


 エル・セラフィアが応じる。


 それだけで。


 現象は、確定した。

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