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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第3話 冒険者登録は普通に行うものですわ

 王都南門を出て、しばらく。


 街道沿いに建つ大きな石造りの建物が見えてくる。


 冒険者ギルド、アルヴェイン支部。


「ここが、冒険者の方々が集まる場所ですのね」


 セリアは興味深そうに見上げた。


「はいっ! ここで登録して、お仕事を受けるんですよ!」


 リリィが元気よく頷く。


「本日は登録からですね、お嬢様」


 ノエルが淡々と補足した。


「ええ。まずは基本から、ですわね」


 そう言って、セリアは迷いなく扉を開けた。


 ギィ、と重い音が響く。


 中は、想像以上に賑やかだった。


 酒の匂い。金属音。笑い声。怒号。


 貴族の屋敷とはまるで違う、雑多で生々しい空気。


 だが。


 セリアが一歩足を踏み入れた瞬間。


 そのすべてが、ぴたりと止まった。


「……は?」


「なんで……令嬢が……?」


「いや待て、あれ……」


 ざわめきが広がる。


 視線が一斉に集まる。


 理由は単純だ。


 場違いすぎる。


 そして、なぜか――目を逸らせない。


「まあ」


 セリアは周囲を見回す。


「ずいぶんと賑やかですのね」


 その声に、緊張が走る。


 誰も返事をしない。


 ただ見ているだけだ。


「受付はこちらでしょうか?」


 セリアは気にせず歩き出す。


 リリィとノエルが自然に続く。


 受付カウンターに立つ女性が、ぎこちなく笑顔を作った。


「い、いらっしゃいませ……」


「ごきげんよう。冒険者登録をお願いしたいのですが」


「……え?」


 一瞬、理解が追いつかなかったらしい。


「冒険者、登録……ですか?」


「はい」


 セリアは頷く。


「本日から活動を始めようと思いまして」


「……」


 受付嬢は完全に固まった。


 背後で誰かが小さく呟く。


「おい……あれ、“あの令嬢”じゃねえか……?」


「南門で魔物を……」


「嘘だろ……」


 ざわざわ、と再び空気が揺れる。


 受付嬢の顔色が、みるみる変わっていった。


「し、失礼ですが……身分証を……」


「こちらでよろしいかしら?」


 差し出されたのは、アストレア公爵家の紋章入り証明書。


 それを見た瞬間、受付嬢の背筋が伸びる。


「アストレア……公爵家……」


「はい。セリア・アストレアと申します」


「……っ」


 言葉が詰まる。


 理解してしまった。


 目の前にいるのが誰なのか。


「登録、承ります……!」


 声が一段上がる。


 ギルド内の視線がさらに集中する。


「冒険者ランクは、通常Eからのスタートになりますが――」


「構いませんわ」


 セリアは即答した。


「順番に学んでいきたいですもの」


 その言葉に、周囲の空気が一瞬だけ歪む。


 順番に。


 学ぶ。


 誰もが心の中で同じことを思った。


 ――必要か?


「で、では……簡単な適性確認を……」


 受付嬢は奥へ視線を向ける。


「試験場へご案内します」


    ◇


 ギルド裏手。


 簡易的な試験場。


 木製の的と、強化革でできた訓練用の魔物模型が並んでいる。


「こちらに、軽く攻撃を――」


 担当の職員が説明を始める。


「威力や技術を確認し、ランク判定の参考に――」


「分かりましたわ」


 セリアは頷く。


「少し振ればよろしいのですね?」


「ええ、まあ、その程度で――」


 職員は言いかけて、やめた。


 理由は分からない。


 ただ、止めた方がいい気がした。


 だが、もう遅い。


 セリアは剣に手をかけていた。


 す、と抜く。


 それだけで、空気が変わる。


 誰かが息を呑む。


 ノエルが一歩だけ下がる。


 リリィは、なぜか楽しそうに目を輝かせている。


「では」


 セリアは、軽く構えた。


 本当に軽く。


 そして。


 振った。


 ――その瞬間。


 試験場の的が、音もなく崩れた。


 いや、違う。


 的だけではない。


 背後の壁。


 さらにその奥の石塀。


 そして、遠くの林まで。


 一直線に、滑らかに切断されていた。


「…………」


 沈黙。


 完全な沈黙。


 誰も、声を出せない。


 理解が追いつかない。


 ただ一人。


「まあ」


 セリアだけが、困ったように首を傾げた。


「少し強かったかしら」


 少し。


 誰も、その言葉に反応できない。


 職員の手から、記録用の板が落ちた。


「……ラ、ランク……」


 震える声で呟く。


「E……では、ありません……」


 当たり前だ。


 誰が見ても分かる。


 だが、問題はそこではない。


 どこに分類すればいいのか。


 それが、分からない。


「……ギルド長を呼べ」


 誰かが低く言った。


 空気が一気に緊張する。


 セリアは不思議そうに周囲を見回した。


「何か問題がございました?」


 問題しかない。


 だが、それをどう説明すればいいのか、誰にも分からなかった。


 ただ一つ。


 確かなことがある。


 この令嬢は。


 やはり――普通ではない。

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