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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 玉響すばる


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第29話 速い方がよろしいですわよね



 王都郊外。出発の準備は整っていた。


「では、次の場所へ向かいましょう」


 セリアがいつも通りに言う。


「はいっ」


 リリィが頷く。


「目的地は西のさらに奥でしたね」


「……距離があるな」


 レオネルが地図を見て言う。


「通常なら三日はかかる」


「補給を考えれば、もう少しかかります」


 ノエルが補足する。


「まあ」


 セリアは小さく頷いた。


「少し遠いですわね」


 誰も反応しない。その“少し”が何を意味するか、もう分かってしまっているからだ。


「……馬を手配するか」


 レオネルが言う。


「それが妥当だな」


 カイルも同意する。


「速度と安定性を考えれば――」


「でしたら」


 セリアが言葉を挟む。


「もっと速い方法がございますわ」


 全員の視線が向く。


「……何だ」


「古竜さんにお願いすればよろしいのでは?」


 沈黙が落ちる。


 レオネルがゆっくり目を閉じる。


「……それを移動手段にするのか」


「はい」


 セリアは頷く。


「速いですもの」


 それだけだった。


「……いや待て」


 カイルが口を開く。


「それは発想としておかしい」


「そうかしら?」


「古竜だぞ」


「はい」


「……移動手段じゃない」


「そうですの?」


 本気で分かっていない顔だった。


「……理屈は通ってる」


 レオネルが小さく言う。


「だが、通してはいけない理屈だ」


「でも」


 セリアは続ける。


「速い方がよろしいですわよね?」


 誰も否定できなかった。


「……呼ぶのか」


 カイルが確認する。


「はい」


 その瞬間、空気が沈む。


 影が落ちる。


 古竜が現れる。


「……また来たか」


 低い声が響く。


「はい」


 セリアが微笑む。


「お願いがございますの」


「何だ」


「移動にお力をお借りしたいのですわ」


 古竜の瞳が細くなる。


「……移動、だと」


「はい。少し遠くまで参りたいのです」


 沈黙が続く。


「……それだけか」


「はい」


 わずかな間の後、古竜が応じる。


「……構わん」


 その一言で決まった。


「まあ」


 セリアは嬉しそうに微笑む。


「ありがとうございます」


 レオネルが空を見上げる。


「……成立したな」


「してほしくなかったな」


 カイルが小さく返す。


「では、参りましょう」


 セリアが自然に言う。


 まるで馬車に乗るかのように。


 古竜が身を低くする。


 完全な受け入れ姿勢。


「……本当に乗るのか」


「はい」


 セリアは迷いなく乗る。


 リリィが遠い目をする。


「……これは」


 ノエルも同じ方向を見る。


「新しい分類が必要です」


「……何だそれは」


 カイルが聞く。


「移動手段:古竜」


「……やめろ」


 カイルが顔を押さえる。


「参りますわ」


 次の瞬間、地面が遠ざかる。


 王都が小さくなる。


 景色が流れる。


 圧倒的速度。


「……速いな」


 レオネルが呟く。


「はい」


 ノエルが答える。


「比較になりません」


「快適ですわね」


 セリアが言う。


「……もういい」


 カイルが遠くを見る。


「考えるのをやめる」


「正しい判断です」


 ノエルが即答する。


 その様子を地上から見ている者たち。


「……対象、移動」


「古竜使用」


「……意味が分からない」


「違う」


 別の声が言う。


「理解した」


 わずかな間。


「最適化だ」


 沈黙が落ちる。


「……あれが」


 小さく呟く。


「最短距離、か」

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