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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第27話 少し高いところへ行きたいだけですわ



 王都郊外。


 街のざわめきが遠くなり、空が広くなる場所。


「今日はどちらへ?」


 リリィが軽やかに尋ねた。


「少し、空を見に行きたいですわ」


 セリアは穏やかに答える。


「空、ですか?」


「はい。近くで見たことがありませんもの」


 その言葉に、レオネルがわずかに眉を動かす。


「……どうやってだ」


「お願いすればよろしいのでは?」


「誰にだ」


「古竜さんに」


 沈黙が落ちる。


 カイルがゆっくりと顔を上げた。


「……冗談じゃないな」


「はい」


 セリアは頷く。


「この前お話ししましたもの」


「……来る保証は?」


「分かりませんわ。でも、来てくださると思います」


 その瞬間、空気が沈んだ。


 風が止まり、光がわずかに歪む。


 影が、落ちる。


 ゆっくりと、巨大な存在が降りてくる。


 古竜。


 大地に降り立つことすら必要としない威圧。


 だが、敵意はない。


「……来たか」


 低い声が響く。


「はい」


 セリアが微笑む。


「お願いがございますの」


 古竜の瞳が静かに細まる。


「何だ」


「少しだけ、空を飛びたいのですわ」


 完全な沈黙。


 レオネルの思考が止まる。


 カイルが目を伏せる。


 ノエルは無言で立つ。


「……それだけか」


「はい」


 間を置いて、古竜が応じた。


「……乗れ」


 セリアの表情がわずかに明るくなる。


「ありがとうございます」


 自然な動作で、古竜の背へと乗る。


 恐れも躊躇もない。


「……待て」


 レオネルが声を上げる。


「正気か」


「はい?」


「古竜だぞ」


「はい」


「……危険だ」


「そうかしら?」


 本気で分かっていない顔だった。


「落ちませんもの」


 それ以上、言葉が続かなかった。


 古竜が静かに身を浮かせる。


 地面が遠ざかる。


 飛翔。


 だがそれは速さではなく、位置の移動だった。


 気づけば、上にいる。


 王都が小さくなり、空が広がる。


「まあ」


 セリアが小さく声を漏らす。


「綺麗ですわね」


 雲の上。


 風は穏やかで、光は柔らかい。


「問題ないのか」


 古竜が低く問う。


「はい、とても快適ですわ」


「……そうか」


 それだけで、会話は成立する。


 地上では、ただ見上げることしかできない。


「……何を見ている」


 レオネルが呟く。


「……分からん」


 カイルが短く答える。


 観測している者たちも、同じだった。


 意味が理解できない。


 戦闘でも、威圧でもない。


 ただ、飛んでいる。


「……使い方が違う」


 誰かが小さく言った。


「戦力ではない」


 一拍。


「日常だ」


 沈黙。


 その結論を否定できる者はいない。


 やがて、古竜が地上へ戻る。


 セリアが軽やかに降りる。


「楽しかったですわ」


 本当に、それだけだった。


「……遊びか」


 レオネルが言う。


「はい」


 セリアは微笑む。


「少しだけ」


 その“少し”が。


 世界の基準を、静かに壊していた。

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