第26話 戦わないのではなく、戦えないのです
王都地下――非公開区画。
灯りは落とされ、音は遮断されている。
その中心で、数人の男たちが沈黙していた。
「……報告を」
低い声が落ちる。
「対象、“星剣卿”」
「接触試行、三件」
「すべて失敗」
短く、正確な報告。
「損害は」
「軽微」
「ただし」
一拍置く。
「成果なし」
◇
「……内容を詳細に」
別の男が言う。
「攻撃は成立せず」
「干渉は無効」
「結果として」
「行動が意味を持たない」
静かな説明。
だが、その意味は重い。
◇
「……つまり」
一人がまとめる。
「戦闘という行為自体が成立しない」
「はい」
即答。
「対象に対しては」
◇
沈黙。
誰もが同じ結論に至っている。
「……ならば」
低い声。
「戦う理由は」
「ない」
◇
「違う」
別の男が首を振る。
「戦えない」
訂正する。
「選択ではない」
「結果だ」
◇
「……なるほど」
小さく頷く。
理解する。
これは戦術ではない。
環境だ。
◇
「対象は」
報告者が続ける。
「意図していない」
「制御していない」
「だが」
一拍置く。
「結果は常に同じ」
◇
「……最悪だな」
誰かが呟く。
「制御不能で、再現性がある」
◇
「いや」
別の声が否定する。
「最善だ」
全員の視線が向く。
「何だと」
◇
「対象は」
ゆっくりと言う。
「敵対しない」
「優先順位が、明確だ」
「困っている者を助ける」
「それだけだ」
◇
「……それが何だ」
「単純だ」
一拍置く。
「我々が困らなければいい」
◇
沈黙。
だが。
その理屈は、成立している。
◇
「……つまり」
「敵対しなければ」
「安全、ということか」
「はい」
即答。
「現時点では」
◇
「……結論を出す」
低い声が響く。
全員が姿勢を正す。
「対象、“星剣卿”」
「非敵対」
「干渉禁止」
「観測のみ継続」
◇
「例外は」
「対象が敵対した場合のみ」
◇
「……だが」
一人が言う。
「その場合は」
「終わりだな」
◇
誰も否定しなかった。
◇
一方――
王城。
「……同じ結論か」
レオネルが小さく呟く。
報告書を閉じる。
「敵対しない」
「観測のみ」
「……当然だな」
◇
「殿下」
側近が言う。
「本当に、それでよろしいのですか」
「何がだ」
「放置、です」
◇
「放置ではない」
レオネルは静かに言う。
「関係維持だ」
「……違いは」
「大きい」
短く答える。
◇
「対象は」
一拍置く。
「選ぶ」
「……何を」
「関わる相手を」
◇
「……なるほど」
側近が小さく頷く。
「だからこそ」
「こちらからは、選ばせる」
◇
一方――
「今日は静かですわね」
セリアは穏やかに言う。
王都の通り。
昨日と同じ場所。
だが。
「……何も来ないな」
カイルが呟く。
「はい」
ノエルも頷く。
「気配がありません」
◇
「まあ」
セリアは微笑む。
「良いことですわ」
◇
その一言で。
すべてが説明される。
戦わない理由。
戦えない理由。
◇
――関わらなければ、何も起きない。
◇
それが。
“星剣”という存在の、唯一のルールだった。




