第25話 敵意は向けられましたが、成立しておりませんわ
王都アルヴェイン――裏路地。
人通りの少ない、影の濃い場所。
「……来たな」
低い声。
数人の男たちが、壁際に潜んでいた。
「対象、“星剣卿”」
「確認済み」
「指示通り、接触する」
短い会話。
だが、その意図は明確だった。
――試す。
◇
一方。
「こちらの道は静かですわね」
セリアが穏やかに言う。
王都の中心から少し外れただけで、人の気配は一気に減る。
「……あまり好ましくありません」
ノエルが警戒する。
「視線が限定されます」
「はい」
カイルも同意する。
「仕掛けるなら、こういう場所だ」
「まあ」
セリアは首を傾げる。
「どなたかいらっしゃるのかしら」
◇
「――今だ」
合図。
次の瞬間。
複数の影が飛び出す。
刃。
魔術。
同時。
完全な奇襲。
◇
「……」
レオネルが動こうとする。
だが。
その必要はなかった。
◇
「まあ」
セリアが、そこにいた。
動いた、という感覚はない。
ただ。
すでに、間に合っている。
◇
刃が止まる。
魔術が消える。
男たちの動きが、完全に止まる。
「……は?」
一人が声を漏らす。
理解できない。
何もしていない。
はずなのに。
◇
「どうかなさいました?」
セリアが首を傾げる。
「危ないですわよ?」
◇
「な、何を……」
男の手が震える。
動かない。
体が。
空間が。
すべてが固定されているような感覚。
◇
「……違うな」
カイルが小さく言う。
「止められてるんじゃない」
「……何だ」
「成立してない」
◇
「……成立?」
レオネルが眉をひそめる。
「攻撃が」
カイルは短く答える。
「“攻撃として成立してない”」
◇
「まあ」
セリアは小さく頷く。
「そうかもしれませんわね」
あっさりと認める。
「危ないことは、よろしくありませんもの」
◇
「……」
男たちは動けない。
だが、拘束されているわけではない。
ただ。
行動が“意味を持たない”。
◇
「……撤退だ」
一人が低く言う。
「無理だ」
その瞬間。
空気が戻る。
動ける。
だが。
誰も、攻撃しない。
できない。
◇
「……何なんだ、あれは」
逃げながら呟く。
「分からない」
「だが」
一拍置く。
「戦えない」
◇
影は消える。
完全に。
◇
「まあ」
セリアは穏やかに言う。
「どなたか急いでいらしたようですわね」
「……そういう問題か」
カイルが呆れる。
「違うのかしら?」
◇
「……セリア」
レオネルが言う。
「今のは、攻撃だった」
「そうですの?」
本気で分かっていない顔。
「はい」
「では、危ないことでしたのね」
「……そうだ」
◇
「でしたら」
セリアは微笑む。
「止めてよかったですわ」
それだけだった。
◇
「……」
レオネルは言葉を失う。
理解する。
これは防御ではない。
回避でもない。
無効化でもない。
もっと根本的な何か。
◇
「……概念操作だな」
カイルが小さく呟く。
「“攻撃”という結果を、成立させてない」
「……そんなことが」
「出来てるだろ」
短く返す。
◇
「まあ」
セリアは楽しそうに言う。
「では、戻りましょうか」
何事もなかったように歩き出す。
◇
その背後。
誰もいないはずの空間。
「……確認」
低い声。
「敵対行動、無効化」
「干渉、不可視」
◇
「……結論」
一拍置く。
「敵対は、成立しない」
◇
それは。
最も単純で。
最も恐ろしい結論だった。




