第21話 名を与えられたとしても、何も変わりませんわ
王城――謁見の間。
静寂が支配していた。
重臣、騎士、魔術師。
王国の中枢が一堂に会し、その中心に立つのは――
セリア・アストレア。
ただ一人。
「セリア・アストレア」
王が名を呼ぶ。
「はい」
セリアは静かに応じる。
完璧な礼。
隙のない所作。
だが、その内側は誰にも測れない。
◇
「お前の力は、既に周知の通りだ」
王は続ける。
「南門、北方、西方――」
「いずれも、国家に等しい事象」
ざわめきが起きかける。
だが、誰も口を挟まない。
「本来であれば」
一拍置く。
「制御すべきだ」
重い言葉。
だが、それは建前でもある。
「……しかし」
王は静かに目を細める。
「それが不可能であることも、理解している」
沈黙。
全員が同意している。
◇
「ならば」
王は言う。
「縛るのではない」
「定義する」
空気が変わる。
◇
「セリア・アストレア」
「お前に、新たな位を与える」
誰もが息を呑む。
「王国特務顧問」
一つ。
「王国守護」
二つ。
そして。
「――星剣卿」
三つ目が、静かに落ちる。
◇
沈黙。
完全な沈黙。
その意味を、全員が理解しようとしている。
だが、理解しきれない。
◇
「これは」
王が続ける。
「命令ではない」
「義務でもない」
「指揮権も持たない」
明確な否定。
「ただ一つ」
一拍置く。
「王国との関係を示すものだ」
◇
「まあ」
セリアは小首を傾げる。
「よく分かりませんわ」
本音だった。
「だが、それでいい」
王は即答する。
「分からなくても構わん」
「お前は、お前のままでいろ」
◇
「では」
セリアは微笑む。
「問題ございませんわ」
それだけだった。
国家の叙勲に対する反応としては、あまりにも軽い。
◇
「……認める」
王が静かに言う。
「セリア・アストレアを」
「王国特務顧問、王国守護、“星剣卿”として叙する」
その瞬間。
形式が、成立した。
◇
「……」
騎士団側の空気が、わずかに緩む。
指揮されない。
それが分かったからだ。
「……」
貴族たちは、沈黙する。
理解できない。
だが、否定もできない。
◇
「……なるほど」
レオネルは小さく呟く。
「そういう形か」
完全に理解している。
これは支配ではない。
ただの“名付け”だ。
◇
「殿下」
セリアが振り返る。
「肩書きが増えましたわ」
「……そうだな」
「便利になるのかしら?」
「……多分、ならない」
「まあ」
セリアは微笑む。
「でしたら、今まで通りですわね」
◇
それが、すべてだった。
何も変わらない。
だが。
すべてが変わった。
◇
「……宰相」
軍務卿が小さく言う。
「これで良かったのか」
「最善だ」
即答だった。
「これ以上は、触れれば壊れる」
◇
一方。
「……星剣卿、か」
カイルが小さく呟く。
「随分と、それっぽい名前だな」
「そうですの?」
セリアは首を傾げる。
「呼びやすければ、それでよろしいですわ」
その一言で。
肩書きの意味は、完全に崩れた。
◇
王城を出る。
いつも通りに。
何も変わらずに。
「次はどちらへ向かいましょう?」
セリアが楽しそうに言う。
◇
“星剣卿”
その名だけが。
王国に残された。
実態を伴わないまま。




