第20話 来訪は静かに、評価はすでに始まっておりますわ
王都アルヴェイン――南門。
白壁の上に旗がはためき、行き交う人々の声が絶えない。
だが、その一角だけは妙に静かだった。
「……来た」
門上の見張りが低く呟く。
視線の先。
白い外套の令嬢と、その一行。
「星剣」
誰かがそう呼ぶ。
今や、隠語ではない。
共通認識だ。
◇
「ごきげんよう」
セリアはいつも通りに微笑む。
門番が背筋を伸ばす。
「お帰りなさいませ、セリア様」
「ただいま戻りました」
形式通りのやり取り。
だが、視線は違う。
観察。
評価。
そして、わずかな畏怖。
「王城より、殿下へ伝令が来ております」
門番がレオネルへ告げる。
「承知した」
短く答える。
「……やはりか」
小さく呟く。
◇
王都の街路。
人々の流れが、自然に割れる。
誰も命じていない。
ただ、そうなる。
「静かですわね」
セリアが言う。
「そうですね……」
リリィは曖昧に頷く。
理由は分かっている。
だが、説明は難しい。
「見られてるな」
カイルが小さく言う。
「はい」
ノエルも同意する。
「明確に」
視線は一方向ではない。
四方。
上。
影。
複数の層から観測されている。
◇
「まあ」
セリアは穏やかに周囲を見渡す。
「お忙しそうですわね」
その感想が、すでにずれている。
◇
「セリア」
レオネルが足を止める。
「一度、城へ来てほしい」
「王城ですの?」
「ああ」
短く頷く。
「話がある」
「まあ」
セリアは少し考える。
「お茶はございますかしら?」
「……用意させよう」
「でしたら、参りますわ」
あっさりと決まる。
◇
その様子を。
遠くから見ている者がいた。
「……確認」
低い声。
視線は鋭い。
だが、表情は動かない。
「対象、“星剣”」
隣に立つ男が小さく頷く。
「王都内、接触開始」
「王子同行」
「……予定通りか」
「いや」
首を振る。
「予測を超えている」
一拍置く。
「明らかに」
◇
「……評価は」
「現時点で確定」
短く答える。
「戦力として扱うのは不適切」
「では」
「現象」
その一言で、すべてが整理される。
◇
「……なるほど」
小さく息を吐く。
「扱えないわけだ」
「はい」
迷いなく答える。
「だからこそ」
一拍置く。
「関係を作る」
◇
「接触は」
「控えめに」
「刺激しない」
「だが」
視線を細める。
「観る」
◇
その場を離れる。
気配を消す。
完全に。
だが。
「?」
セリアが、ふと振り返った。
「どうかなさいました?」
リリィが聞く。
「いえ」
セリアは微笑む。
「どなたかいらっしゃる気がしたのですが」
気配はない。
完全に消えている。
普通なら、気づかない。
「……気のせいかもしれませんわね」
そう言って、前を向く。
◇
だが。
見ていた側は、動きを止めていた。
「……今のは」
低い声。
「気づいたのか」
「いえ」
もう一人が首を振る。
「気づいてはいない」
一拍置く。
「ただ、見えている」
◇
「……厄介だな」
その評価は、完全に一致していた。
◇
一方。
「王城は久しぶりですわね」
セリアは楽しそうに言う。
「変わっていないとよろしいのですが」
何も知らずに。
自分が。
王国だけでなく。
他国からも観測され始めていることを。




