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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第12話 その一言で、選択が変わることもありますわ

 同時刻――


 王都地下、非公開区画。


 灯りは最小限。


 音は遮断。


 そこに集うのは、王国の表に出ない者たち。


「……接触は確認された」


 低い声が響く。


「第三王子、対象と同行」


 数名の男たちが無言で頷く。


「西の術式は完全崩壊」


「再構築不可」


「原因は単独個体――セリア・アストレア」


 空気が静かに沈む。


「……観測結果は」


 別の男が問う。


「分類不能」


 短い答え。


「魔術理論の外にある」


「干渉不可能」


「再現性なし」


 つまり。


「……対処不能、か」


「現時点では」


 否定しない。


 できない。


「ならば」


 一人が静かに言う。


「方向を変える」


 全員の視線が集まる。


「排除ではない」


「接触だ」


「……接触?」


「そうだ」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「敵対を避ける」


「関係性を構築する」


「可能であれば――取り込む」


 沈黙。


 危険な選択。


 だが。


 それしかない。


「……失敗すれば」


「分かっている」


 即答だった。


「だからこそ、最適な人材を出す」


    ◇


「――呼んだか」


 扉が開く。


 入ってきたのは、一人の男。


 年齢は二十代後半。


 整った容姿。


 だが、どこか軽い。


 笑っているのに、目が笑っていない。


「任務だ」


 短く告げられる。


「対象は、セリア・アストレア」


 一瞬だけ。


 男の表情が変わる。


「……星剣、か」


 すぐに戻る。


「で?」


「接触しろ」


「殺さない」


「刺激しない」


「だが、関係を作れ」


 矛盾した命令。


 だが、意味は明確だ。


「……面倒だな」


 男は肩をすくめる。


「だが、まあいい」


 口元がわずかに歪む。


「面白そうだ」


    ◇


 一方。


「……静かですわね」


 セリアが呟く。


 森を抜け、開けた草原に出ていた。


 風は穏やか。


 空も青い。


 だが。


「はい」


 ノエルが短く答える。


「気配があります」


「一人です」


 リリィが補足する。


「こちらを見ています」


「まあ」


 セリアは足を止める。


「でしたら、お話をしてみましょうか」


 その言葉に、レオネルが目を細めた。


「不用意ではないか」


「そうかしら?」


 セリアは振り返る。


「まだ何もされておりませんもの」


 正論。


 だが、それが通じる相手とは限らない。


「……出てこい」


 レオネルが低く言う。


 隠れる意味はないと判断した。


 沈黙。


 そして。


 木陰から、一人の男が姿を現した。


「いやあ、さすがだね」


 軽い口調。


 手を軽く上げる。


「まさかこんなに早く見つかるとは思わなかったよ」


 敵意は見せない。


 だが、油断もない。


「はじめまして、でいいのかな?」


 視線が、セリアへ向く。


「セリア・アストレア嬢」


「ごきげんよう」


 セリアは微笑む。


「どなたかしら?」


「通りすがりの冒険者――って言いたいところだけど」


 苦笑する。


「まあ、嘘はやめておこう」


 一歩、距離を取る。


「君に用があって来た」


「まあ」


 セリアは小首を傾げる。


「どのようなご用件ですの?」


 完全に、通常の会話。


 警戒も威圧もない。


 それが、逆に異様だった。


「……まずは確認だ」


 男はゆっくりと口を開く。


「君は、何が目的だ」


「目的?」


「そう」


 視線を外さない。


「何を望んでいる」


 重要な問い。


 だが。


「特にありませんわ」


 即答だった。


 間もなく。


 迷いなく。


「ただ、色々な場所へ行って」


「色々な方とお会いして」


「少しお手伝いをしているだけですわ」


 それだけ。


 それだけなのに。


 男は、一瞬だけ言葉を失った。


「……それだけ、か」


「はい」


 セリアは頷く。


「もしよろしければ」


 一歩、近づく。


「あなたのお話も聞かせていただけます?」


 柔らかい声。


 拒絶がない。


 警戒もない。


 ただ、純粋な興味。


 その一言で。


 男の中の何かが、わずかに揺れた。


「……」


 沈黙。


 本来なら、ここで主導権を握るはずだった。


 だが。


 逆だ。


 自分が、選ばされている。


「……面白いな」


 男は小さく笑った。


「いいよ。少しだけなら」


 選択が、変わった。


 敵対ではなく。


 対話へ。


「ありがとうございます」


 セリアは嬉しそうに微笑む。


 それだけで。


 関係が、確定した。


    ◇


「……殿下」


 リリィが小さく言う。


「今の……」


「ああ」


 レオネルは短く答える。


「理解した」


「何をですか?」


「……いや」


 首を振る。


「やはり、分からない」


 だが一つだけ、確信していた。


 この令嬢は。


 戦わずに。


 選択を変える。


 それが、どれほど危険なことかを。


 まだ誰も、正確には理解していない。

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