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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第10話 理解できないものほど、価値があるのかもしれない

 西の森を出た、街道の分岐点。


 昼下がりの穏やかな空気の中。


 ただ一つだけ、異質な音が近づいていた。


 ――馬の蹄。


 一直線に、こちらへ向かってくる。


「まあ」


 セリアは顔を上げた。


「どなたかしら」


 やがて、姿が見える。


 白銀の装飾を施された騎乗装備。


 整った姿勢。


 迷いのない進路。


 その人物を見て、リリィが小さく声を上げた。


「……あ」


 ノエルも、わずかに目を細める。


 馬が止まる。


 砂を巻き上げ、静止する。


 その上にいるのは――


「……久しいな、セリア」


 第三王子、レオネル・アルヴェインだった。


「まあ、殿下」


 セリアは穏やかに微笑む。


「お会いできて嬉しいですわ」


 まるで、偶然の再会を喜ぶかのような自然さ。


 だが。


 レオネルの方は違う。


「……探した」


 短く言う。


「そうですの?」


「南門、北方、西方」


 一つずつ並べる。


「すべて、君だな」


 問いではない。


 確認でもない。


 確信だった。


「はい」


 セリアはあっさりと頷く。


「少しお手伝いをしただけですわ」


 その一言で、空気が変わる。


 “少し”。


 その言葉の意味を、レオネルは理解している。


 だからこそ。


「……古竜が膝を折ったと聞いた」


「はい」


「理由は」


「お話をしただけですわ」


 完全な沈黙。


 レオネルは、ゆっくりと息を吐く。


「やはり、分からない」


 正直な言葉だった。


「何が、だ」


「すべてですわ?」


 セリアは不思議そうに首を傾げる。


「難しいことは何もしておりませんのに」


 その言葉に、レオネルは目を細めた。


「君にとっては、そうなのだろうな」


「はい」


 迷いのない肯定。


 それが、逆に重い。


    ◇


「セリア」


 レオネルは馬から降りる。


 ゆっくりと歩み寄る。


「一つ、聞かせてほしい」


「なんでしょう?」


「君は、どこまで出来る」


 直球の問い。


 逃げ場のない質問。


 だが。


「どこまで、とは?」


 セリアは本気で分からない顔をする。


「例えばだ」


 レオネルは周囲を見渡す。


 木々。


 岩。


 大地。


「この一帯を、消すことは出来るか」


 静かな問い。


 だが、その意味は重い。


 国を滅ぼす規模の話だ。


「まあ」


 セリアは少し考える。


 本当に、少しだけ。


「出来ると思いますわ」


 あっさりと答えた。


 風が止まる。


 音が消える。


 リリィが息を止める。


 ノエルの指先が、わずかに動く。


「……本気か」


「はい」


 セリアは頷く。


「でも、必要がありませんもの」


 それが理由だった。


 出来るかどうかではない。


 やるかどうか。


「必要がない……」


 レオネルは繰り返す。


「だからやらないのか」


「はい」


 当然のように言う。


「困っている方がいらっしゃるのであれば別ですが」


 そこに、迷いはない。


 ただの基準。


 ただの“普通”。


「……そうか」


 レオネルは静かに頷いた。


 理解はできない。


 だが、一つだけ分かる。


 この存在は。


 制御できない。


    ◇


「殿下」


 セリアが柔らかく声をかける。


「ご用件はそれだけでしょうか?」


「……いや」


 レオネルは少しだけ視線を逸らした。


 そして、戻す。


「同行させてほしい」


 リリィが目を見開く。


 ノエルの視線が鋭くなる。


「同行、ですの?」


「ああ」


 迷いはない。


「君を、知りたい」


 その言葉に、セリアは少し考える。


「よろしいですわ」


 あっさりと答えた。


「旅は賑やかな方が楽しいですもの」


 それだけだった。


 王族を同行させるという判断としては、あまりにも軽い。


「……助かる」


 レオネルは短く言う。


 だが、その内心は静かに揺れていた。


 理解したい。


 だが同時に。


 理解してはいけないのではないか。


 そんな感覚。


    ◇


「では、次へ参りましょう」


 セリアが歩き出す。


 その背中を、三人が追う。


 リリィ。


 ノエル。


 そして。


 第三王子、レオネル。


 奇妙な一行が、静かに進む。


    ◇


 その背後。


 木陰から、一つの影がそれを見ていた。


「……接触、確認」


 小さな声。


 すぐに消える気配。


「対象、“星剣”」


 そして、もう一つ。


「第三王子、同行」


 情報が、動き出す。


 世界が、静かに揺れ始める。


    ◇


「楽しみですわね」


 セリアは微笑む。


「どのような方とお会いできるのかしら」


 その言葉の意味を。


 まだ誰も、正確には理解していない。

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