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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第9話 報告は、理解されないものです

 西の森から離れた岩陰。


 息を整えながら、男たちはようやく足を止めた。


「……止まれ」


 先頭の男が低く言う。


 全員がその場に崩れるように座り込んだ。


「……何だったんだ、あれは」


 誰も答えない。


 分かっていないからだ。


「魔法陣が……消えた……」


「触れただけだぞ……?」


「いや、触れてすらいない……足だ……」


 断片的な記憶だけが、口に出る。


 だが、それらはすべて現実感がない。


「……ありえない」


 誰かが言う。


「ありえないはずだ」


 だが、起きた。


 それだけは確定している。


「……報告する」


 先頭の男が決断する。


「この件は、俺たちの手に負えない」


「だが……どう報告する」


「“触れただけで術式が崩壊した”だと?」


「信じるわけがない」


 沈黙。


 正しい。


 そんな報告を受けて、信じる組織は存在しない。


「……それでもだ」


 男は低く言う。


「報告しなければ、次は俺たちが消える」


 誰も反論しなかった。


    ◇


 王都。


 とある地下施設。


「……以上が、現地の報告です」


 報告者の声は、どこか硬い。


 目の前にいるのは、数名の男たち。


 表に出ることのない、王国の影。


「魔法陣は完全に機能停止」


「再構築不能」


「原因は不明」


「対象は、単独の人間」


 沈黙。


 やがて、一人が口を開く。


「……人間、か」


「はい」


「名前は」


「セリア・アストレア」


 空気が変わる。


 別の男が目を細めた。


「アストレア公爵家」


「はい」


「……あの令嬢か」


 静かな声。


 だが、その一言で全員が理解する。


 情報は共有されている。


 表に出ない情報ほど、正確に。


「南門での魔物消失」


「北方古竜の異常行動」


「そして今回の件」


 一つずつ、積み上げられる。


「偶然ではないな」


「はい」


 報告者が頷く。


「すべて同一人物によるものと判断されます」


 再び沈黙。


 やがて。


「……評価は」


 一人が問う。


 短く。


 端的に。


 報告者は一瞬だけ迷った。


 言葉を選ぶ。


 だが、選びきれない。


「……分類不能」


 それが結論だった。


「戦力としての測定は不可能」


「魔術的干渉も不明」


「敵対した場合の結果は――」


 一瞬、言葉が止まる。


 だが、言い切る。


「――保証できません」


 静かな衝撃。


 だが、誰も声を荒げない。


 それが意味するところを、全員が理解しているからだ。


「……接触は」


「推奨できません」


 即答だった。


「観測のみ」


「干渉は最小限に」


「敵対は――」


 言葉を切る。


 だが、その先は全員が分かっている。


「……避けるべき、か」


「はい」


 それが最適解だった。


    ◇


「だが」


 別の男が口を開く。


「放置はできん」


 静かな声。


 しかし、その重みは大きい。


「王国にとっての不確定要素だ」


「制御不能である以上、危険と判断すべきでは」


 意見が分かれる。


 だが、どちらも正しい。


「……アストレア公爵は」


「把握しているはずです」


「止めていない」


「止められない、の方が正しいでしょう」


 短い会話。


 だが結論は出ない。


「……王子は」


 一人がぽつりと呟く。


「第三王子、レオネル殿下は」


 全員の視線が集まる。


「あの方は、関わっている」


「はい」


「ならば」


 ゆっくりと結論が形になる。


「接触は、王子経由とする」


 それが最も自然で、最も安全な方法。


「観測を継続」


「必要ならば、対話」


「だが――」


 最後に、念を押すように言う。


「刺激するな」


    ◇


 同じ頃。


 王城。


「……そうか」


 レオネルは静かに報告を聞いていた。


「古竜は、膝を折ったか」


「はい」


「そして、西では術式が崩壊」


「はい」


 短い応答。


 だが、その内容は重い。


「……やはり」


 レオネルは目を閉じる。


「理解できない」


 正直な感想だった。


 だが、それと同時に。


「だからこそ、か」


 目を開く。


 その瞳に、わずかな熱が宿る。


「会いに行く」


「殿下?」


「直接だ」


 立ち上がる。


「彼女に」


 止める者はいない。


 止めても意味がないと、誰もが知っているからだ。


    ◇


 その頃。


「次はどちらへ向かいましょう?」


 セリアは楽しそうに地図を広げていた。


「西は終わりましたわね」


「はい……終わりましたね……」


 リリィの声はどこか遠い。


 ノエルは無言で頷く。


「では、少し休憩してから――」


 そのとき。


 遠くから、馬の音が聞こえた。


 一直線に、こちらへ向かってくる。


「まあ」


 セリアは顔を上げる。


「どなたかしら」


 まだ知らない。


 それが、王国の天才。


 第三王子であることを。

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