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魔眷のミナト  作者: 少佐
7/10

黒猫【シュレイド】

 十日目。


 川で顔を洗う。


 冷たい水が、意識を引き締めた。


 ――来る。


 殺気を感じた方向へ、石を投げる。


 空気を裂く速度。


 次の瞬間。


 もやが、そこから滲み出るように現れた。


 ドゥルン、と。


 黒い猫が、姿を現す。


 観察する。


 動き。


 癖。


 兆候。


 右手を振り上げた――火魔法。


 水を巻き上げ、壁を作る。


 横へ走る。


 両足を踏ん張る――木魔法。


 うねる触手。


 斬る。切る。断つ。


 一番太い根に、剣を突き立てる。


「……来いよ」


 手のひらを上に向け、招く。


 もやが、膨らむ。


 怒り。


 だが――


 体を縮めた。


 闇。


 来る。


 ――ここだ。


 放たれる瞬間。


 わずかな、間。


 踏み込む。


 最速で、足元へ。


 そして――


 初めての斬撃を、叩き込んだ。


 もやが、弾ける。


 離散し――


 それは、俺へと集まってきた。


「なっ……!?」


 避けられない。


 飲み込まれる!


 ◇


 気づけば、静寂。黒いもやは特に何も起こらず俺の中へと消えていった。


 体は軽い。


 だが――


 どっと、疲れが押し寄せた。


 その場に崩れ落ちる。


「……終わった、のか」


 荒い息を整えながら、空を見上げる。


 もう、何もいない。


 静かだ。


 あれだけ耳障りだった音も、気配も、殺気も。


 全部、消えている。


 ……終わった。


 その実感が、遅れて体に染み込んでくる。


 力が抜ける。


 膝が笑う。


 その場に、崩れ落ちた。


「……はは」


 乾いた笑いが、漏れる。


 勝ったのか。本当に。


 あの、どうしようもなかった存在に。


 何度も、何度も殺されて。


 逃げて、焼かれて、潰されて。



 それでも――


 生きてる。


 胸に手を当てる。


 鼓動が、確かにそこにある。


 うるさいくらいに。


 生きている証みたいに。



「……終わった、のか」


 誰に聞くでもなく、呟く。


 答えは、返ってこない。


 ただ、静寂だけがある。


 ゆっくりと、息を吐く。


 長かった。


 たった十日。


 けれど――


 それ以上の時間を、生きた気がする。


 


 ミナトは立ち上がり剣を握った。


 刃は欠け、あちこちが歪んでいる。血と煤で、元の色も分からない。


 剣を鞘に納め。


 足を、一歩踏み出す。


 もう、振り返らない。



「……こんな森、さっさと抜けるか」


 空を見上げる。


 光が、眩しい。


 少しだけ、目を細める。


 そして――




 中都市へ向かって、歩き出した。






 ◇


 ――遥か遠く。


 崖の上。


 黒衣の魔女は、微笑んでいた。


 その傍らには、大きな黒猫。


魔女「ふふ……シューちゃんの回復魔法は優秀ねぇ。瀕死でも完全回復できるんだもの!」


シュレイド(黒猫)「たわいもないことですよ。しかし、成長するものですね」


魔女「これからが、楽しみですわ」


 黒猫は鼻を鳴らし答えた。


シュレイド「フン!僕の方が100倍いい男なのに」

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