4日目
俺はまだ負けない
4日目
「はぁっ……はぁっ!」
肺が、空気を貪る。
喉が焼ける。
心臓が、うるさい。
全身が震えている。
――まだ、生きている。
視界が揺れる。
だが、倒れない。
「……終わらせない」
歯を食いしばる。
足に力を込める。
地面を蹴る。
走る。
だが、今度は違う。
ただ逃げるだけじゃない。
意識を、後ろへ向ける。
来るっ!
空気が、歪む。
横へ跳ぶ。
次の瞬間、さっきまでいた場所を――炎が貫いた。
熱風が頬を叩く。
遅れれば、終わっていた。
転がる。
すぐに起き上がる。
まだだ。
視界の端で、炎が木にぶつかる。
燃え上がる。
枝が、葉が、一気に火を帯びる。
だが――
炎は、そこで止まった。
追ってこない。
「……そういう、ことか」
息を整える暇もない。
だが、理解だけはできた。
追尾には、限界がある。
顔を上げる。
黒猫。
あいつが、そこにいる。
逃げるな。
向き合え。
ゆっくりと、一歩踏み出す。
剣を、構える。
「来い……」
空気が、張り詰める。
――来た。
直感が、叫ぶ。
体が勝手に動く。
紙一重で、身を捻る。
何かが、頬をかすめた。
次の瞬間。
背後で、木々が――一線に、薙ぎ倒された。
水。
鋭すぎる、水の刃。
横一線に、空間ごと切り裂くように走っていく。
その軌跡を、目で追う。
速い。
だが、見えた。
いける――
そう思った、一瞬。
ズバッ。
音が、遅れて届く。
気づいたときには、遅い。
無数の、水の刃。
認識する前に、体が切り裂かれていく。肉が裂け、骨が断たれる。
理解が、追いつかない。
「――あ」
声にならない音が、漏れる。
地面が、近づく。
いや。
自分が、崩れている。
意識が、落ちる。
暗転した。




