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第55話 とある男との再会

 狩りポイントを移動しながら魔物の群れ討伐を繰り返すこと数時間。

 ティンクだけでなく、アブカリンも群れを一掃することに成功していた。


 ティンクの風属性の魔法は磨きがかかってきたようだ。



 ミラリアではサルアンドロ・ラゴという自分の完全な上位互換を肌で感じた。

 人物への評価は別としても、戦士として思うところはあったのだろう。


 アブカリンについても、Dランク冒険者以上の実力があるように思える。

 もちろんフィジカル面では弱い部類なんだろうが、とにかく魔道具が有用だ。



 アブカリンの魔道具は種類も多く、汎用性も高い。

 彼女が戦闘で魔法を使うところはみていないが、火属性と土属性が使えるらしい。


 魔技師として、魔法は製造過程でのみ使うことにこだわりを持っているとのこと。

 実際、自作の魔道具だけでB級クエスト相当の魔物討伐をクリアしている。



「これはあたしもランク上がっちゃいますね~」



 チェーンの先端にぶら下がった冒険者リングを胸元から取り出し、ニヤニヤし始めた。


 アブカリンが冒険者ランクを上げることに興味があるとは思えない。

 だが、ティンクや俺と差がありすぎることは嫌なんだろうな。


 理解はできないが、納得はできる。



「……ちょっとだけ静かにしてもらっても良いですか」



 アブカリンによるいつものウザ絡みをあしらっていると、ティンクが急に口を挟んだ。


 黄金色の狐耳がピンとたち、ピクピクと小刻みに動いている。


 集中して音を拾っているのだろう。

 俺たちは素直に黙ってティンクの様子を見守る。



「やっぱり、おかしいですね。魔物の群れが途切れました」



 ここ大草原は魔牛を中心として魔物が大量に群生している。

 収穫祭の時期になったことで冒険者たちの活動が減り、群れの数も増えていた。


 俺たちも狩りを始めてから、ほぼノンストップでいくつも群れを襲撃していた。

 先程までの様子から、そうそう途切れるものでもないと思っていたが、どうなんだろう?



「アブカリン、何か原因はわかるか?」



 俺の問いにアブカリンは指で唇を押し上げ、うーんと考えるようなポーズをとる。



「他に強力な魔物が出現して逃げたとか?」



 ティンクの耳がピクンと大きくはねる。



「あたしたち以外の冒険者が乱獲しているとか、ですかね?」



 ティンクがバッと北方向に視線を向けた。

 その表情はどこか期待が込められており、尾が僅かに左右へ揺れている。



 なんだ、こっちに来てたのか。


 ティンクがこちらを向いて頷いたので、俺は確信する。



「え? え? なんですか?」



 ひとりわからないアブカリンはキョロキョロと俺たちに視線を向ける。



 ――懐かしい魔力だ。



***



「「「乾杯!」」」



 夜、俺たちは宿の近くにある酒場で再会を祝っていた。

 宿で腐っていたサクラも無理やり連れ出し、席に着かせる。



 バスティアン・ルブラン――

 青白い髪が目立つ、海賊専門のバウンティハンターだ。


 そして、俺が“唯一”この世界で尊敬の念を持つ先輩冒険者でもある。



「ここにくりゃお前たちに会える気がしてな!」



 早くも酔いが回っているのか、バスティアンは顔を赤らめて上機嫌だ。



「ブルサ以来だな。あっちの海賊はもういいのか?」


「おうよ、お前らが面倒な連中は片付けたからな」



 マウリシオ・オロペザだったか?

 元商人の狡猾な海賊であり、俺たちが冒険者登録する際に試験のターゲットだった男だ。


 入国時にとっ捕まえた新米海賊の件かもしれない。

 どっちにしたって俺が気にするような相手じゃなかったがな。



「ここんところ海賊のナワバリにも変化があってな。ま、いいさ」



 それより、とバスティアンは言葉を区切った。



「お前らとの出会いは俺にとって良い刺激だった。俺はまだまだ強くなるぜ?」



 Bランクとして、中堅の冒険者として、彼は尊敬を集める男だった。

 聞いたところによると、彼に育てられた冒険者は少なくない。


 あの日、海竜討伐後に語ってくれた話が思い出される。



 どこかで諦めを持ち、現状に甘んじていた男。

 周囲からの評価とは裏腹に自己嫌悪を募らせていた男。


 今のバスティアンを見ると、その気配は既に欠片もない。



「妹さんについては何かわかったのか?」



 バスティアンが言っていた生き別れの妹の話をふと思い出し、聞いてみる。

 だが、バスティアンは首を横に振るだけだ。



「そっちは何にもだ。心配はしてない、俺の妹だからな」



 顔は赤く頬の筋肉は緩んでいるが、その瞳には確信があるように思える。



「……本当に変わったな、バスティアン」



 俺がそう言うと、バスティアンは鼻をフンと鳴らし、ジョッキを煽った。



「クソガキが、偉そうなことを言うな!」



 ダンッとジョッキを机に叩きつけると、嬉しそうにそう言う。

 ティンクも笑顔だ。



 あぁ、そういうところだぜ、バスティアン。

 俺がお前のことを気に入ってるところはよ。


 絶対言葉にはしないがな。



「おやぁ~? アザールさ~ん?」



 俺の心の機微に気付いたのか、アブカリンが嫌らしい笑みを向けてくる。

 やめろ。



「んで、お前らも出るつもりなんだよな?」



 酒場の給仕から新しいジョッキを受け取ったバスティアンもニヤケ面を向けてくる。

 彼が聞いていることはひとつしかない。



「そうだ。だが、ランクが足りなくてな」



 俺は左手を上げて、冒険者リングを見せる。


 バスティアンは目を大きく見開き、面白いくらいにパチパチと瞬きをした。

 目をゴツゴツした拳でこすって、もう一度確かめるように俺の左手を見る。


 わなわなと震えながら、そのままティンクの左手も確認した。



「……おい、俺がそこに辿り着くまでにどれだけ時間がかかったと思ってる?」



 あ、なんかキレた。


 ティンクは眉尻を下げ、心なしか狐耳もシュンとしているように見える。


 いや、そこは堂々としておけよ。


 ほろ酔いになったアブカリンも「へ?」と間抜けな声を出した。



「お前ッ……わかるがよぉ、それはちょっと……!!」



 言葉にならないほどに怒りのボルテージが上がったのか。

 額には音が聞こえそうなほど血管が浮き出ている。



「クソガキがぁ!!!」



 その晩、収穫祭で浮かれている他の客の誰よりも、俺たちがうるさかっただろう。


 ずっと黙っていたサクラの深いため息が耳に残った。

次回、第56話「深い森でサンドウィッチを食べながら」

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