第54話 武闘大会参加への道
武闘大会の会場を出た俺たちは、冒険者ギルドへ向かうことにした。
サクラは宿に戻ると言って、ひとり抜けていった。
少しだけ意外だったのは、ティンクが無理についていこうとしなかったことだ。
適切なサクラ離れが進んでいるようで俺としては微笑ましい。
それにしてもサルバドール・ホセフィの演説は圧倒されるものがあったな。
だが、結局のところ新たな情報が得られたとは言い難い。
武闘大会には冒険者の参加も認められること。
大会の優勝者には新団長の座が用意されていること。
既知情報が確定しただけ、とも言える。
「宝剣の佩剣か」
強いて挙げるなら、今年の優勝者にはもうひとつの特典があった。
それが宝剣ラ・エスピガを常時佩剣する権利だ。
これまでは豊穣の儀にてお披露目されるだけだった宝剣。
魔剣としても超一流らしく、今後は新騎士団長の専用剣としても使われるらしい。
「とても綺麗な剣でしたが、刃こぼれとか大丈夫なんでしょうか」
ティンクの疑問はどこかずれている気もするが、彼女らしいと言えば彼女らしい。
「大丈夫ですよ~。魔力量の多い魔剣は自己修復機能が標準装備です!」
アブカリンが胸を張って説明する。
ティンクは「そうなんですか、凄いですね!」と驚いていた。
そういやアブカリンって天才魔技師とか言われてたな。
「お前も魔剣とか造れんのか?」
ちょっとだけ興味がわいて聞いてみた。
アブカリンは首をブンブンと横に振る。
「全然! それなりには造れると思うんですよ、天才ですからね。でも、自分が納得できるようなものは造れそうにありませんから、造ることはないと思いますよ」
自信があるのかないのかよくわからない回答が返ってきた。
ま、造らないってことに変わりはない。
「そんなもんか」
俺が素っ気なく返事をすると、「自分から聞いたくせに!」とアブカリンは何やら怒っていた。
だが、考えてみるとなんだな。
俺たちのパーティーって武器を使う奴がいないな。
ティンクをみると、こちらを向いてコテンと首を傾げる。
ブルサ王国で冒険者登録して以降、何故かおしゃれに目覚めたティンク。
ミラリアでアブカリンと出会ってからは、更に身なりを気遣うようになった。
動きやすさ重視ではあるが、少女らしい可愛さを備えた服を着ている。
冒険者として活動する際は皮の胸当てをつけるが、武器の類はいっさい持たない。
「剣士とか欲しいな」
俺の呟きにアブカリンが歪な剣を掲げてアピールしていた。
どこから取り出したの、それ?
「あたしは戦う天才魔技師アブカリンちゃん! どんな魔物も切り刻みますよ~」
そういやこいつも冒険者登録していたんだったな。
おそらく自作の剣を振りまわしているが、なかなかどうしてさまになっている。
「危ないから止めろ」
どうせ変な仕掛けがあるに決まっているからな。
下手に街中で起動されても困る。
そんなことをやっていると、いつの間にか目的地に辿り着いていた。
俺はため息を吐きながら冒険者ギルドの玄関扉を開ける。
ガランガランと入室を告げる鐘。
ここはちょっとだけ厳かな雰囲気の音だな。
いつも通りギルドの鐘を味わいながら、俺は受付を目指した。
***
「更新は完了いたしました」
返ってきた冒険者リングにティンクは目を輝かせている。
俺たちはBランクへ昇格していた。
冒険者登録以降、積極的に依頼をこなした記憶はない。
俺が訝しんでいると、事務的な説明を受付嬢がしてくれた。
「ブルサ王国でのA級クエスト“近海の海竜”討伐に続き、ミラリア連合ではS級クエスト“大海賊サルアンドロ・ラゴ”討伐、及び、“黒風の肉食鳥”解体が認められており、その功績からBランクへの昇格が承認されました」
その他、細々とした功績も加点されたらしい。
気まぐれで行った魔物の討伐や海賊の拿捕なども細かく把握されている。
冒険者登録前のことだが、シュヴァイツでの聖堂爆破事件に関わる犯人の捕縛にも貢献したことが例外的に認められたそうだ。
冒険者ギルドの情報収集力というか、伝達能力は侮れんな。
ティンクは冒険者リングを指にはめ、満面の笑みだ。
アブカリンは少しだけ悔しそうにしている。
魔道具作りにしか興味がないと思っていたので、意外だ。
「よぉ、お前らが“ゴールデンルーキー”のアザールとティンクか」
受付カウンターの奥からひとりの偉丈夫が顔を出す。
日に焼けた浅黒い肌にカカオ豆のような深く艶やかな茶色の瞳。
波打つ豊かな茶髪はポマードできっちりと後ろに撫でつけられており、顎を覆う立派な髭はミリ単位で美しく整えられている。
「そうだが、あんたはギルマスか?」
「いかにも、【バルトロメ・ベラスケス】だ」
そう言ってバルトロメは俺に手を差し出した。
俺もそれをとって握手を交わす。
がっしりと握られたそれは、鉄のインゴットも潰されるほどの圧力がある。
「……」
何かを試していると察した俺は、無言のままそれを受け入れた。
バルトロメは刺すような鋭利さを孕んだ瞳を俺に向けている。
フッと笑みをこぼすと、そのままティンクにも手を差し出した。
ティンクとは普通に握手を交わしたらしい。
「お前たち、武闘大会に絶対出ろよ」
冒険者ギルドにどよめきが起こった。
***
「アザールさん、あっちの方角に魔牛の群れです!」
「でかしたぞ、ティンク!」
俺たちはサン・ミゲルの街から東へ抜けた先にある草原に来ていた。
とにかく魔物を狩って、狩って、狩りまくっている。
「アブカリン!」
「まっかせてくださ~い! 目を閉じてくださいね! いけっ、『ひかるくん』ッ!」
ティンクの耳を使って索敵し、アブカリンの魔道具で魔物をその場に硬直させる。
最後に俺がアブカリン作の剣で一網打尽にする、という狩りがパターン化していた。
バルトロメが言うには、武闘大会への参加資格はAランク以上とのこと。
聖騎士を相手にする以上、それなりの実力と実績が必要らしい。
Aランクへ昇格するためには達成依頼の質と量が求められる。
俺たちは既にS級クエストをクリアしているため、あとはとにかく量だ。
そのため、現在はギルドの常設依頼を片っ端からこなしている。
それにしても、アブカリンが振り回していた自作の剣は、なかなかどうして素晴らしい。
使用者の魔力を吸い上げてその形を自由自在に変化させられる代物だ。
天才魔技師の通り名は伊達ではなく、俺の魔力量にも耐え得る逸品。
「オラッ!」
俺は剣を数十メートルにまで伸ばし、それを群れに向かって横薙ぎに振った。
ただそれだけで数十頭の魔牛は一網打尽になる。
「うっひょ~! やっぱりアザールさんヤバ過ぎます! それともあたしの『かわるくん』が最高過ぎるんですか!?」
ネーミングセンスは別として、アブカリンは思った以上に優秀だった。
冒険者としても経験も知識もあり、討伐証明部位の採取も手際が良い。
「……凄いですね」
ティンクの呟きは、アブカリンに向けたものか俺に向けられたものかわからない。
だが、その瞳には対抗心が宿っており、かつての控えめな姿はなかった。
俺の頬も自然と緩む。
「よし、次の群れに向かうぞ。ティンク、次はお前が倒してみろ」
「はい!」
目の前の惨状とは裏腹にティンクの明るく元気な声が草原に響いた。
次回、第55話「とある男との再会」




