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第52話 三色の聖騎士団

 収穫祭の初日が終わり、夜の街は昨日以上に騒がしかった。


 俺は情報収集でもしようと酒場に出かける。

 アブカリンがついて来ようとしたため、金を渡して巻いた。


 サクラは外出したがらなかったので、ティンクも待機組だ。



 俺は繁盛してそうな酒場に入り、カウンターに座る。

 常連客っぽい男の隣を狙った。


 酒とツマミを頼み、隣にも良い酒を提供するよう注文する。



「よぉ、地元の人間か? 俺は観光で来たんだが、いろいろ話を聞かせてくれよ」


 酔っぱらいの常連客に俺は酒を渡しながら話しかける。


 男は「お、わかってるじゃねぇか」と言いながら、嬉しそうに酒を受け取った。



 俺は収穫祭のこと、聖騎士のこと、武闘大会のことをいろいろと聞く。

 地元の人間であり、敬虔な信徒を自称する男は意外にも流暢に詳細を教えてくれた。



 アラティーリャは国王の座が空席であり、教会の枢機卿が代行していること。

 収穫祭も武闘大会も毎年開催されるが、その年によって様変わりすること。

 聖騎士団は第一の“赤”、第二の“青”、第三の“白”と三つにわかれていること。



「豊穣の儀はそれぞれの騎士団長が任期の最後の年に行うって訳だ」


 とても名誉なことなんだぞ、と顔を赤らめた男が嬉しそうに言う。

 だいぶ酒が進んでいるようだ。



「武闘大会の優勝者が新たな団長になるってことは、任期は三年だけか?」


 そもそも毎年どこかの団長が入れ替わるって、大丈夫なのか?

 武闘大会で優勝できるほどの実力者を三年で引退させるってもったいなくねぇか?


 俺の疑問に男は自慢げな顔で答える。



「任期は三年だけだが、その後は近衛騎士として帝国へ向かうことになる」


 めちゃくちゃ名誉なことなんだぞ、と男は繰り返すように言った。

 こいつ、めっちゃ酔ってる。


 だが、相変わらず回答は端的で的確だ。



「赤と青と白だったか? 今日見た団長は白だったが、その違いは何かあるのか」


 俺の問いに男は「待ってました」と言わんばかりにダンッとジョッキをカウンターに叩きつけた。



「ドミニク・メンドーサ様! 最高の結界師よ! あの方なら魔王だって封印できる!」


 急にテンションが上がり、酒場にいた他の客のことも煽りだす。


 最初は何事だと面倒臭そうな態度だった客たちも、メンドーサの話だとわかった途端に男と肩を組んで白の団長を讃えだした。



「聖騎士の象徴、光属性の魔法使いが集まる第三聖騎士団!」

「白の団員を束ねる最高の聖騎士こそドミニク・メンドーサ様!」

「その結界はSランク指定の魔物すら簡単に封じ込める!」

「アラティーリャ、アミグダロイド教の守り神!」



 ワハハハと男たちは楽しそうに語る。

 俺は「封印」と聞いても嫌な思い出が掘り起こされるだけだ。



「……それで、赤と青はなんなんだ?」


 メンドーサに興味を示さないことが不満なのか、男たちはシラケる。

 組んだ腕を解き、自席に戻っていく男たち。


 ずっと俺と話してた男は酒臭いため息を吐くと、隣に座り直した。



「赤は攻撃部隊、魔物や海賊の脅威を取り除くのが仕事だ。青は防衛部隊、王都や港を防衛するのが仕事だ」


 急に事務的な口調になった男だが、やはり内容は端的で的確。



「だったら、赤の団長の方が白より強ぇんじゃねぇか?」


 俺の素朴な疑問に男はまた酒臭いため息を吐いた。


 わかってねぇなお前、とあからさまに言われた気分だ。

 ちょっとだけ傷付いたぞ。



「あのな、確かに赤の団長は強ぇよ。Aランクの冒険者が束になっても敵わねぇ」


 男曰く、聖騎士は入団時点でBランク相当の実力は持っているらしい。

 一般的な聖騎士はAランク相当の実力があり、役職持ちはSランク相当だと。


 つまり、聖騎士とは一般的な冒険者より遥かに強いという訳だ。



 ケマルやバスティアンが束になっても敵わない人間というのは、想像し難い。

 もちろん、俺ならケマルが百人いても余裕だが。



「団長クラスになるとSランクの冒険者でも子ども相手みてぇなもんよ」


 男の口ぶりは大げさだが、事実でもあるんだろうな。

 周囲で耳をそばだてている酔っぱらいたちもウンウンと頷いている。



「それでも白の団長の方が強いっていうんだな?」


 男は力強く首を縦に振った。



「シュヴァイツ王を止められるのは、メンドーサ様だけだろうな」


 それは文字通り、“世界最強の男”と並び得るという話だ。

 期待を込めて、と言った男の様子に俺は逆に冷めてしまった。



 シュヴァイツ王は俺が軽く拳を合わせただけで片腕が吹き飛んだ相手だ。

 その情報は当然ここまで回っていないんだろうが、俺としては残念で仕方ない。


 せめて「メンドーサ様ならシュヴァイツ王でも余裕よ!」くらいに言ってほしかった。


 俺のテンションが変わったことに男は首を傾げ、「どうした?」と聞いてくる。

 手をヒラヒラと振って、なんでもないと答えた。



「今年の武闘大会はどうだ?」


 話題を変えるように俺が聞くと、男はまた得意げに語り聞かせてくれた。


 噂によると今年は冒険者も何故か参加するようだ。

 せっかく白の団長を決める大会になんで冒険者なんかが参加するんだ。

 ただの噂じゃねぇ、実際に今年の収穫祭には冒険者もたくさん来ている。



 そんな話をいろいろ言っていたと思う。

 俺は相槌を打ちながらも、どこか聞き流していた。


 次々と奢られることに気分が良くなったのか、男は構わず捲し立てる。

 あるいは、俺を元気づけようとしてくれたのかもしれない。



 こっちの事情も知らないのに良い奴だな。


 ひとしきり話し込んだ後、俺は男に銀貨を握らせ、会計を済ませて酒場を出た。



 収穫祭は始まったばかり。


 夜は深いが、街はまだまだ騒がしかった。

次回、第53話「正一位枢機卿サルバドール・ホセフィ」

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