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第48話 ミラリア商人の性

 ティンクが気を取り直すように、レオンから次の目的地について情報を得る。


「収穫祭ですか?」


「そうそう、毎年行われる世界屈指の大イベントさ!」



 レオンのテンションが高い。

 俺の奇行をなかったことにして、切り替えようとしているんだろうな。



「今年は特に凄いらしいよ。何と言っても武闘大会だね!」


 ドン・ヴァルデスも話題に上げていた武闘大会だ。


 何でもアラティーリャでは聖騎士の武力を誇示するため、毎年収穫祭の一環として開催されているらしい。



 そもそも聖騎士の入団試験は厳しく、実力的には冒険者でいうところのAランク程度は必要だと言う。


 普段、目にすることのできないレベルの実力者たちによる闘いは、娯楽に飢えた民にとって年で一番の楽しみだと断言されることも少なくないとか。



「そうは言っても、教会の内輪イベントだろ?」


 武闘大会は、何も聖騎士らの実力を誇示するためだけではない。


 トーナメント方式で行われるそれは、聖騎士らの序列を決する試験でもある。

 優勝者は聖騎士団の団長へ昇格することが約束されているらしい。


 だからこそ、聖騎士らも必死になって全力で闘うのだとか。



「それが今年の武闘大会は毛色が異なるらしいよ」


「け、毛色が異なる……!」


 何故かティンクが過度に反応し、サクラをチラチラ見る。

 顔は真っ赤に染まり、もじもじしながら何か言いたげだが、なんだ?



「それはよい」


 サクラはティンクの視線に気付き、そう言った。

 ティンクは助かったと言わんばかりに深く息を吐く。


 プシューと音がしそうなほど、ティンクは気が抜けていった。



 なんだ、これ?


 レオンも首を傾げるが、サクラが顎をしゃくって続きを促す。



「えっと、うん。続けるね」


 流石は商人。

 余計なことには口を出さず、すぐ何事もなかったかのように続けた。


 レオンが言うには、その武闘大会に今年は冒険者も参加できるらしい。

 噂段階だが、確かな情報筋からの話であり、もうすぐ発表されるだろうとのこと。



 なるほど、そういうことか。



 ヴァルデスが俺に武闘大会へ出ろと言っていた理由がわかった。

 どうもレオンの説明と聞いていた内容に違和感があったのだが、納得だ。



「ヴァルデスもその情報を掴んでたって訳だな」


「あ、そうなの? でも、ここからは知らないと思うよ」


 レオンが初めて見せる表情だ。

 嫌らしく笑みを深め、勝気な振る舞いになる。



「今回の優勝賞品は破格だって。世界中から強者を集めるつもりだよ」


 レオンは「つい先程入手したばかりの情報だ」と自慢げだ。

 鼻につかないと言えば嘘になるが、それ以上に興味をそそられる話しぶり。



「従来通り聖騎士団の団長の席はもちろん、サルバドール様は国宝を用意した」


「国宝ですか?」


 基本的に会話を俺に譲るティンクも思わず口を出してしまう。



「そう、アラティーリャ豊穣の象徴、宝剣【ラ・エスピガ】」



 サクラがピクッと反応を見せる。



「儀礼用の剣だけど、優勝者はその佩剣を認められるらしいよ」


 ティンクは素直に目を輝かせて驚いている。


 国宝である剣を腰に吊るして何が楽しいんだと俺は思うが、それを名誉だと感じる者もいるんだろう。


 ティンクの反応とレオンのドヤ顔を見る限り、この世界ではそれなりの意味があるんだろうな。



 サクラは何か考え事をし始めた様子だ。



「何が起こってるんだろうね、宝剣は教会の上層部しか見ることもできないものだったのに」



 俺たちの会話はその後も続き、レオンからありがたい情報をいくつかもらった。


 レオンが俺たちにそこまで肩入れする理由もよくわからず、何気なく聞くと


「投資だよ」


 と、商人らしい回答が得られた。


 よくわからないが、そういうことなんだろうと思うしかない。



「世話になったな」


 俺は礼を口にして、レオンの館を後にする。


 逸る気持ちもあるが、次の目的地はアラティーリャだ。


 俺たちは宿に戻り、早めに寝ることにした。



***



「行っちゃったね」


 静かになった応接間でレオンは独り言ちていた。


 アザールたちとの出会いは、彼にとっても衝撃的だった。



「いけるかもとは思ったけど、まさか本当にやってくれるとはね」


 レオンはアザールたちと出会った当時、冒険者ギルドにいた。

 ミラリアのギルドマスターに相談をしていたからだ。


 ギルマスは多すぎるミラリアの海賊たちの愚痴を溢し、ミラリアの役立たずな冒険者たちの不満を溢していた。



 ミラリア連合は商人の支配する連合国家。

 地政学的な有利から、世界のハブ拠点として繁栄してきた歴史がある。


 すべての者が集まるこの地には、当然、冒険者たちも多く集まった。



 だが、その日暮らしを好む冒険者たちは目先の金に目が眩みがちだ。


 もちろん、仁義を重んじ、正義を好む者も多い。

 それでも商人たちが目の前で積上げる金の魅力には勝てない者がほとんどだった。



 結果として、冒険者の質は急降下していった。


 商人たちは冒険者ギルドに頼らず、傭兵を好んで使ったという背景もある。

 冒険者のリングを捨て、傭兵に身を転じた者も少なくない。



 商人は自分の身の回りさえ良ければ、他がどうなろうと興味がなかった。

 寧ろ、他者を蹴落とそうと画策するのは“商人の嗜み”ですらある。


 日常的に悪事へ手を染める者たちは、既に悪事であるという自覚すら薄い。


 海賊を取引相手のひとつくらいにしか認識しない者が大半だった。



 レオンとギルマスは、この国家では少数派であった。


「やっぱり彼らに声をかけたのは正解だったよ」


 ギルドで騒ぐアブカリンとそれに絡まれていたアザールたち。


 アブカリンは変人だが、圧倒的な天才でもある。

 彼女の嗅覚は充分信用に値した。



 アブカリンが縋る男を見て、レオンにはその価値がわからなかった。

 だが、アブカリンの嗅覚を信じ、レオンは声をかけた。


 サクラという老成した少女には苦労したが、それも少しの間だけ。


 彼らのリーダーはアザールであり、彼を動かすのは容易だった。



 本当にアブカリンをヴァルデスに引き渡したと聞かされた時はレオンも冷や汗をかいたが、彼らなりに細工をしていたと後で知ることになる。



「そうだ、彼らにプレゼントしよう!」



 レオンは何かを思いつき、手紙を認める。

 それはアラティーリャで懇意にしている宿の手配だった。


 収穫祭の期間にアラティーリャへ向かうであろう彼らが最も喜びそうなもの。

 あのメンバーを見て、レオンは彼らが宿をとれるイメージを持てなかったからだ。



 彼は上機嫌だった。


 自分の手を一切汚すことなく、アブカリンを手に入れたからだ。


 サルアンドロ・ラゴの一件の後、アザールたちは思惑通り、自分を訪れた。

 目的であるアブカリンを連れて。



 彼女には「アザールたちと話がしたい」と言って、別の部屋に案内した。

 最初は抵抗の意思を見せた彼女だが、金を握らせれば簡単だった。


 レオンは更に「ゴーレム関連の資料もあるよ」とアブカリンに囁く。


 明かにアブカリンの雰囲気が変わった。



 レオンはいつもの人好きのする笑顔でアブカリンを見送り、そっとメイドに指示を出す。


 アブカリンへ提供する紅茶に睡眠薬を入れろ、と。



 レオンは笑いを堪えるのに必死で気付かなかったのだろう。


 ティンクの耳が僅かに動いたことに。

次回、第49話「旅は道連れ」

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