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第38話 天才魔技師アブカリン

新章のスタートです!

「なんだあれ! 島が等間隔に並んでねぇか!?」


 島影がはっきりしてくると、ミラリア連合の全容が明らかになってきた。

 小さな島がいくつもあり、円環状に並んでいる。


 俺は努めて明るく振る舞っているが、ティンクは心なしか元気がない。


 航海士としての仕事は抜かりないが、今も「そうですね」とつれない返事だ。


 サクラは新たに得た尾が馴染んできたのか、ほとんど自分で歩き回る。

 寝ている時間も少なくなってきた。


 目が開く様子はないが、あれもいつか開くのだろうか。


 珍しく甲板にでて海風を浴びているサクラをみる。

 こちらを見て「気にするな」と言っていた。


 そんな少しだけぎくしゃくした空気を纏いながら、俺たちはミラリア連合に到着した。




「ヴェルネカルタへようこそ!」



 舷梯を降りると、いきなり住民から歓迎された。


 陽気な男はこちらが聞いてもいないのに島の説明を始める。


「アニキ、良い港を選びましたね。ここはレオン様が統治するヴェルネカルタ島。ミラリアで一番治安の良いところですよ」


 サクラの言ったとおりだ。

 いくつもある港から「あそこだ」と珍しくサクラは指定していた。



「そうか、それは良かった。ここは何があるんだ?」


 俺が陽気な男に話を聞くと、何故かサクラはあからさまにため息を吐いた。


「よく聞いてくれました! ここは世界中の珍しいものが何でも手に入る島ですよ!」


 ノルディック産の融けない氷、ブルサ王国の魔道具、アラティーリャ産の栄養価が豊富で美味な小麦、レクサゴンの見たことない新製品などなど。


 よくそんなに舌が回るなと感心するほど、男は次々と身振り手振りで説明していた。



「わかった、助かったよ。俺たちは先ず冒険者ギルドに行きたいんだが、どこにあるんだ?」


 俺がそう言うと、男は満面の笑みになり「あっちです!」と案内を始めようとした。


 親切な奴だなと思って俺がついていこうとすると、サクラに腕を引かれて止められる。


「ん? どうした?」


 俺は状況がつかめず、サクラをみるとその顔は呆れ果てていた。


「銀貨を二枚出せ」


「は?」


 何故かサクラにカツアゲされる。

 俺が動かず怪訝そうな顔をしても、サクラは「出せ」と引かない。



 渋々サクラへ銀貨を渡すと、サクラはそのまま男へ放るように銀貨を渡した。


 男は気まずそうな顔をしている。


「ははは、お嬢さんはミラリアに来たことがあるんで?」


 サクラは男の問いに応えず、俺たちを先導するように歩き始めた。


「良い旅を!」


 男は歩き始めた俺たちの背に向けて、送り出してくれた。



 しばらく歩いた後、先程のことをサクラに問う。


「たわけが。あんなもの情報料だ案内料だと延々と物乞いしてくるだけだ」


 ほう、そんな感じなのか。

 ただの気の良い兄ちゃんくらいにしか思っていなかった。


「事前に商人の国だと聞いていただろう。気を引き締めよ」


 そんな一幕があり、俺たちは冒険者ギルドに到着した。


 ティンクはまだ、いつもより口数が少ない。


 いつもヴィネグレットを押していた手が、どこか寂しそうだった。



***



 カランカランと冒険者ギルドの扉を開けると綺麗な鐘の音がした。

 ギルドごとにこの鐘の音は違い、ちょっとした楽しみになっている。


 冒険者らの視線が一瞬こちらに集まるが、俺たちの左手人差し指を見るとすぐに視線を戻した。


 何かを警戒しているような気がしたが、俺はそのまま受付へ向かった。



「ヴェルネカルタのギルドへようこそ。ご用件は何でしょうか」


「あぁ、今日こちらに来たばっかりでな。その報告と良い宿を教えて欲しい」


「かしこまりました」


 決まり文句のようなやり取り。

 一切の無駄がなく、心地良いとすら思える一連の流れ。


 俺とティンクはリングを指から外し、受付嬢へ渡す。



「どぉしてあたしが指名手配されないといけないんですか!!」



 そんな俺の平穏を乱したのは、隣のカウンターで騒ぐひとりの女だった。


 マホガニー色の髪を揺らし、同色の眼はどこか猫を思わせる。

 少女と大人の狭間にあるその顔は、何故か煤汚れていた。


 華奢な身体には不釣り合いの武骨な工具が腰にいくつも並んでいる。

 使い込まれたそれをみると、奇抜なファッションアイテムという訳でもないだろう。


「オルケリア島のドン・ヴァルデス様から申請があり、正式な手続きを経て認定されまして……」


 カウンター越しの受付嬢も非常に困った様子だ。


「あぁー、もう! 証拠はあるんですか? 証拠!?」


 女は髪をごちゃごちゃとかきむしり、子どものように食って掛かる。


「えっと、あの……」


 受付嬢が言い淀んでいると、女は勝ち誇ったかのような顔で笑みを見せる。



「専属魔技師として月額報酬制で契約されていたと思いますが、度重なる報酬の前払い及びその前払い分の未稼働に加え、与えられた工房兼研究室の三度の爆破損壊とその修繕費、更にはヴァルデス様の私室にある金庫から金貨三十二枚を盗んだ件が罪状として認められました」



 受付嬢による感情の乗っていない無慈悲な事実の列挙。


 聞いているこちらまで気分が悪くなるほどの内容だ。


 当然、本人は青ざめた顔で冷や汗を流している。



「そ、そんな! 確かにお給料は前借りしましたけど! 部屋も爆破しちゃったけど!」


 とんでもない女だ。


「あのぶッ……ヴァルデス様の金庫から“借りた”金貨は二十九枚だけです!」


 あいつ今「豚」って言いかけたよな、絶対。



「……では、盗み出した金貨は二十九枚だったと修正依頼を出しておきましょう」


「ち、違いますよ! 嫌だなぁお姉さん、盗んだんじゃないですよ、借りただけです!」



 関わらないでおこう、俺はそう思って後ろを振り向いた。

 ティンクもアレとは関わり合いたくないようすで、コクコクと首を縦に振っている。


 俺はカウンターに向き直り、受付嬢から良い宿の情報を受け取る。


 返ってきた指輪をはめ、冒険者ギルドを出ようとした時だった。



「くんくんくん、匂います……匂いますよぉ!!」


 騒がしい女が奇行に走っていた。


 俺は思わず「何してんだお前」とツッコミをいれてしまう。



「見つけましたぁ!!! 強そうで金持ちそうな男ぉ!!!」



 そう言って女は俺をビシッと指差してきた。



「は?」



 流石に俺は悪くないよな?


 ――それが俺たちと、天才魔技師【アブカリン】との出会いだった。

次回、第39話「島主レオンのお願い」

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