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第37話 砂の島

「何事だ!? 誰だきさブヘェ!」


 流石にここまですると騒ぎに気付いたのか、人族の男どもが駆けつけてきた。

 俺は問答無用で片っ端から殴り殺していく。


「……アザールさん?」


 俺は獣人たちが収監されている中央へ歩き始める。


「んあ? ……ヒッ!」


 人族は見つけ次第、問答無用で殺して歩いた。

 ゆっくり、俺の存在をアピールするように、なるべく派手に。


「アザールさん!」


 中央に辿り着くと、そこにはティンクの言っていた通り、大勢の獣人族。

 ほとんどが子ども、大人でも二十歳に達していない。


 いずれも禍々しい檻に入れられ、手足と首には枷がかけられ鎖でつながれている。


 人族の男どもが一斉に俺へ斬りかかり、何か騒いでいる。

 俺は狙いを定める訳でもなく、無造作に腕を振ると、それだけで男どもは無言になった。


 檻の中から俺の様子を窺っていた獣人族の表情が恐怖の色に染まる。


 俺の周りには手足が千切れ、あるいは首から上のない人族“だったもの”がいくつも転がっていた。


「落ち着いてください! アザールさん!!」


 やがて男どもは俺に斬りかかるのを止めたのか、離れたところから魔法を放ってくる。


 火や水の弾丸、風の刃、鋭利な石礫――



「アザールさん!!!」



 俺は地面を殴りつけると、その衝撃ですべての攻撃を退けた。


 足元に転がっていた“モノ”はついでとばかりに肉片となって、辺りに血肉の雨を降らせる。


 魔法を放った男どもはもちろん、檻の中からも悲鳴が響く。


 ちらりと檻を覗くと、ひとりの獣人族の男の子と目が合った。

 汚れた毛は逆立ち、顔面は蒼白で、失禁していることにも気付いていない。


 胸に苦しみを覚える。



 ドクン、ドクン……。



 低く重い鼓動音が響いた。


 俺は魔力を島中に張り巡らせる。



 島は周囲約八百メートル。

 面積は約二万平方メートル。


 人族の数、二百五十二人。

 獣人族の数、五百八十六人。



 良いな、女神の野郎から与えられた肉体は。

 魔力の発動もスムーズで高度な演算も楽に耐えられる。



「ダメです! そんなことをしたらアザールさんが!!」


「うるせぇんだよ!!」



 瞬間、俺は島のすべてを砂に変えた。


 月夜に照らされ、舞う砂は白かった。



 ティンクはペタンと腰を抜かしたように座り込む。


 砂の上に残ったのは、俺たちと奴隷だった獣人族たちだけだ。


 彼らは夢でも見ているような表情で、口を開けたまま辺りの光景を眺めている。



「やれやれ、何がどうなったらこうなるのだ」



 宙に浮かんだサクラがふわふわとこちらにやって来ていた。


 穏やかな口調とは裏腹に俺を睨みつける視線は厳しい。



「あっ」


「『あっ』ではない、わたしでなかったらどうするつもりだったのだ」


 やべ、権能の対象からサクラを外すの忘れてたわ。



***



「それでは皆さん! またお会いしましょう!」


 ティンクが元気に手を振って獣人族の乗った船を送り出す。


 俺たちは彼らを奴隷用の輸送船らしい船に乗せ、この島からの船出をサポートした。


 彼らの中にはこの島出身ではなく、どこかから攫われてきた者も多く、その中に船乗りの経験がある者もいたことは幸運だった。


 ティンクの提案で彼らにはシュヴァイツまでの航路を示した地図と海図を渡し、彼らを信じて送り届けることまではしないことにした。



 俺もシュヴァイツ王宛に直筆の手紙を書いて渡している。


 最後まで俺に怯える獣人は多かったが、大人の中には直接感謝を伝えてくれる者もいた。


 サクラはもちろん、ティンクにも謝罪したが、どこかぎこちなさが残る。


 俺の力を改めて見て、思うところがあるのだろう。

 それとも、俺が怒りで暴走気味になってしまったからだろうか。



 少しだけ、俺たちの距離は旅の始まりに戻ったようだった。


 目を閉じて乾いた空気を吸い込む。


 瞼の裏には、檻の中で怯えた目を向ける獣人の男の子の姿が焼き付いていた。

幕間はこれにて終わりです。

次回、第38話「天才魔技師アブカリン」

新章のスタートです。

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