第35話 小島の実態
「どういうことだ?」
俺は少し声のトーンを落とし、サクラへ問う。
「何故気付かん。あやつらは冒険者リングばかり気にしておった」
何か見られているなぁとは思っていたが、あれはリングを見てたのか。
「冒険者リングが珍しかったとか、田舎過ぎて見たことなかっただけじゃないか?」
それだけで犯罪者扱いされても可哀想だ。
別に何の思い入れもない連中だが、それだけで犯罪者扱いはちょっとなぁ。
高価そうな装飾品だと思って、欲しがっていたってことか?
「たわけが。あれは冒険者を警戒しておる証拠だ」
そういう考えもあるのか。
だが、警戒心が強いこと自体は悪いことじゃない。
「あやつらの言葉選びもおかしい。ここは“国”だと言うのに、決定権を持っているのは“領主”だと言う」
「……その場しのぎで吐いた嘘ってことか?」
俺はまったく気付かなかった。
「そうであろうな。あまり部外者が来ることを想定しておらんかったようだ」
そこまで言われると俺も理解が及んだ。
「かなり組織的だが、更に上の存在がいるってことか」
サクラは鼻をフンと鳴らし、暗に俺の言葉を肯定した。
俺たちの会話から、ティンクは彼女なりに確かめようとしたのだろう。
目を閉じて、集中している様子だ。
「……聞こえました。悍ましい声です。かなりの数がいるかと」
ティンクらしくない冷たい言い方。
ティンクらしくない濁した言い方。
「おい、何が聞こえたんだ? 何がこの島にいる?」
俺の問いにティンクは躊躇を見せたが、はっきりと言った。
「おそらく、奴隷です。小さな子どももいるみたいです」
それは、あまり聞きたくない部類の話だった。
***
この世界で奴隷は、建前上は禁じられている。
法王自ら“女神の意思に背く行為”と断じているからだ。
それでも人間の醜い欲望は、いつだって法律の隙間を探し当てる。
ティンクが声を聞いた方へ向かって行くと、見るからにティンクの表情が強張ってくる。
近付くにつれ、その実態が嫌でも耳に入ってくるようになったのだろう。
サクラは客室で待機してもらった。
未だ足が自由でないという理由が一番だが、妖術によって俺たちが客室にいるよう偽造してもらうためでもある。
「アザールさん」
ティンクの冷たい声。
俺はそれに反応し、足を止める。
ティンクの視線の先には、高い壁で囲われた一角があった。
壁には等間隔に物見櫓が設置されており、人の気配がしっかりとある。
「こんな田舎で随分と厳重な警備をしてるな」
ティンクは怒っているのか、泣いているのか、どちらともとれる表情をしていた。
「ここでお前は引き返しても良いんだぞ?」
今までに見たことのない様子のティンクに俺はそう声をかける。
だが、ティンクははっきりと首を横に振った。
「わかった。だったらもっと落ち着け」
俺はティンクの背中を軽く叩く。
精神状態が不安定な奴ほど何をするのかわからない。
現にある悲惨な状況については、既に疑うところはないだろう。
だが、俺たちがそこに介入するだけの明確な理由までは知り得ていない。
この島には来たばかりだ。
俺たちが知らないことは、あまりにも多すぎる。
「いいえ、理由なんて必要ありません。悪は悪です」
ティンクの意思は固いようだった。
……あれ? お前まで俺の心を読むようになったの?
次回、第36話「死という救済」




