第34話 流れ着いた田舎の小島
アザールたちはミラリア連合を目指す途中、本格的な大雨に見舞われていた。
「ティンク! これは大丈夫なのか!?」
雨が激しく船を叩き、風は船を煽った。
波は高く、いつ転覆してもおかしくないといった状況。
「航路を外れますが、一度近くの島に避難しましょう!」
海ではティンクの方針に従うのが一番だ。
ティンクは必死に風を操り、何とか嵐を抜けようとしていた。
バスティアンの魔法が懐かしい。
これほど絶えず荒れる海に対してどれほど効果があるかわからないが、あの男がいればもっと楽に抜け出せるのは間違いないだろう。
時折、船を襲う大波を拳で散らしながら、俺もティンクをサポートした。
嵐を抜けたのは、次の日の朝だ。
「島です! アザールさん、島が見つかりました!」
穏やかな海に出たかと思えば、そこには小さい島がポツンと見えた。
疲労困憊のティンク。
今の俺たちにとったら、その島は砂漠のオアシスみたいなもんだ。
「疲れているだろうが、もう少しだけ頑張れよ」
「はい!」
ティンクはそれでも元気に返事をした。
風を操り、グングンとスピードを上げて島に近付く。
やがてはっきりと見えるようになったその島は、緑豊かな小島だった。
***
「いやぁ、旦那ぁ。あの嵐を抜けて来たんですか?」
見知らぬ俺たちの船を見つけ、港で待っていたのは歯の抜けた小太りの男。
つい先程まで畑仕事でもしていたのか、靴や衣服は泥だらけだ。
「あぁ、ちょっとヤバいと思って立ち寄らせてもらった」
俺の言葉に「たまげたなぁ」とよくわからない反応をする男。
彼の他にもぞろぞろと野次馬のように農家らしい恰好の男女が港にやって来た。
誰もがみすぼらしい恰好をしており、どこかのんびりとした印象を受ける。
ここまでわかりやすい“田舎者”は、この世界に来て初めてだ。
ティンクたちの住んでいたノルディックの方が環境としては厳しいだろう。
だが、彼らは“戦士”だった。
そのためか、田舎者という雰囲気とはまた違った印象だったことを思い出す。
「この島に宿はあるか? 一晩だけでも良い、嵐が去るのを待ちたい」
俺は遠くの海に浮かぶ黒い雲を指差しながら男に尋ねた。
「宿ですかい? すみませんが、この“国”には宿なんてねぇんです」
相変わらず呑気な調子で答える男。
だが、困ったことになったな。
「そうか、だったらどこか泊まれる場所はあるか? なければ野宿でも良い」
雨風が凌げれば良い。
見知らぬ小さな土地でいきなり好き勝手に野宿する訳にもいかず、念のためという感じで聞いてみたが、男や野次馬たちから返ってきた反応は意外なものだった。
「いやぁ、“領主さま”に聞いてみねぇとわからねぇです」
まさか、野宿を含めて回答を曖昧にされるとは思わなかった。
俺は思わずサクラとティンクを見るが、ふたりとも困惑している様子だった。
いや、サクラは何かに気付いたのか、少しだけ怪訝そうな雰囲気を纏っている。
彼らそのものというより、彼らの視線を気にしているようだ。
「わかった。なら、その領主さまのところへ案内してくれ」
男は「へぇ」と間の抜けた返事をした後、「こっちです」と案内してくれた。
なんとも言えない不思議な感覚だが、田舎だから仕方ないと俺は自分に言い聞かせた。
その後、俺たちは地味な領主のもとへ向かい、事情を説明。
すると意外なことに、特段のやり取りもなく領主館に泊めてもらうことになった。
「なんか不思議な島だな」
客室へ入って早々にそんな声が自然と漏れる。
俺の呟きにティンクは「そうですね」と同意する。
「無償で泊めてもらって言うのも申し訳ないのですが、どこか変ですよね」
ティンクの違和感通り、男たちも領主も驚くほどこちらを詮索しようとして来ない。
普通、田舎者なら見知らぬ人間をもっと警戒するものじゃないか?
「のんびり屋さんばかりなんですかね」
俺とティンクの会話にサクラは深いため息を吐いた。
「何も見ておらんな。ここはおそらく犯罪者の島であろうよ」
その言葉に俺とティンクは驚きの声を上げた。
次回、第35話「小島の実態」




