第33話 閉会
「レオニダス、お前らはどうするつもりだ?」
シュヴァイツ王は仕切り直しと言わんばかりに、沈黙を続ける法王へ振った。
一同の注目が集まる。
特にアラティーリャの国家元首代理にして法王の腹心であるサルバドールは握った拳に力が入る。
法王は独特の間を開け、ゆっくりとした口調で言った。
「この眼で確かめ、女神の意図に従い、定める」
各人の反応は様々だった。
神話の系譜に連なる者たちは、非常に驚いていた。
法王は明確に拒絶するという確信に近いものがあったからだ。
サヴェリオも同様、法王の言葉が信じられないといった様子。
サルバドールは目を閉じ、顔を伏せ、何を考えているのかわからない。
明確に苛立ちを見せたのは、太陽王だった。
更に強まった歯ぎしりは、すべての歯がなくなってしまうのではないかと心配するほどだ。
「サルバドール、お前はどうする?」
シュヴァイツ王による確認。
サルバドールは意を決したように顔を上げ、断言した。
「女神の選択に委ねる」
その言葉が意味する具体的なところは不明であるが、それは法王と同様、尾の譲渡を明確に拒絶しないことを意味していた。
***
その後、少しの休憩を挟み、会議は再開した。
パブロが尾の現状について、簡単にまとめる。
「現在、判明している月の雫については次の通りです」
既知の事実であるが、改めて確認がなされる。
「先ずは月の雫の所有に関して、決議がなされた前回の世界会議を振り返ります。所有が認められたのは、神聖レミシェス帝国、アラティーリャ、レクサゴン、シュヴァイツ、オルドソドの五か国でございました」
五か国はそれぞれ一尾ずつの所有が認められている。
厳重に保管することが原則とされたが、軍事利用に及ばない範囲での利用は認められていた。
「残りの三つについて、当時は所在が不明でしたが、現在はその内のひとつが判明しております」
海を漂っていた尾が、海蛇に食べられ、海竜になったというのは知らされていた。
逆に言うと、この情報もこの会議が開催されるまでは未発見だったということだ。
「残りのふたつについては、現在も所在が明らかではありません」
おそらく闇市場に流れ、海賊やコレクターの手に渡っているのではないかと考えられている。
「最も有力な所有者の候補は、大海賊【サルアンドロ・ラゴ】、魔の海域にいると言われる通称【女帝】、珍品コレクター【エティエンヌ・メルシエ】、秘密結社“ジ・アルビオン・ソサエティ”の総帥【ゼロ】となります」
パブロは他の候補者についても何名か名を上げていたが、遮ったのはオルドソド王。
「勘違いするな」
パブロはギョッとして、言葉を止めてオルドソド王を見る。
「最も隠し持っている可能性があるのは、この場にいる者だろう」
ゾクッとするほどに冷たい声だった。
オルドソド王の言葉は、この場にいる誰の心にも深く刺さった。
ある者は端からその考えもなかった可能性。
ある者は敢えて考えないようにしていた可能性。
そして、ある者にとっては心当たりがありすぎる可能性。
沈黙を破ったのは議長である法王だった。
「この場で互いを疑い合っても得るものはない。次の議題へ移ろう」
パブロがやや焦った様子で返事をし、次々と議題をこなしていった。
海賊らの情報共有や関税に関する交渉など、重要事項が話し合いされる。
先程までの空気とは打って変わって、業務的で無感情なやり取り。
「以上で良いな」
予定されていた議題が一通り終わると、法王が仕切る。
また仰々しく両手を広げ、会議の終了を宣言した。
「これにて臨時の“世界会議”を終了する」
一同は言葉なく立ち上がり、各々の帰路についた。
次回、第34話「流れ着いた田舎の小島」




