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第32話 荒れる会議

 シュヴァイツ王が世界会議の議長である神聖レミシェス帝国へ事前に通告した内容がパブロによって読み上げられた。


「馬鹿げている」


 最初に言葉を発したのは、太陽王だった。

 シュヴァイツ王が睨みつけるが、太陽王は気にした様子もなく続ける。


「“月の雫”を渡せだと? あれは国の重要な動力源だ。渡せる訳がなかろう」


 月の雫とは、サクラの尾の隠語だ。

 “女神の巫女”は世界の禁忌中の禁忌。


 それと関連付けられる単語は公式の場で口にすることが許されていない。


 シュヴァイツ王は黙ったまま太陽王を睨み続ける。


「アラティーリャもそうであろう? 豊穣の恵みは月の雫あってこそだ」


 太陽王は止まらず、自分と同じ立場のサルバドールに振る。


 サルバドールは何も言わず、法王を見た。


「シュヴァイツの王よ、改めて問うが通告した内容に偽りはないか」


 法王はサルバドールの視線を受けて、シュヴァイツ王に問うた。

 それはただの確認であったが、一同はシュヴァイツ王の返答に集中する。


「霊峰に誓って偽りがないと断じよう」


 シュヴァイツ王による最上級の誓いは、太陽王の言葉を詰まらせた。



 問題はいくつもある。


 先ず、教会の汚点であり禁忌である女神の巫女が復活を遂げたこと。

 彼女が自身の尾を取り戻す旅を始めたこと。


 そして何より、彼女の旅には“アザール”という異常な存在が同行していることだ。


 法王はその絶対的な威厳を保っていたが、内心で頭を抱えていた。


 僅かな希望を持ってオルドソド王を見るが、彼はシュヴァイツ王の通告が真であると確信している様子だ。


「九尾の方はまだ本調子じゃねぇみたいだが、アレと一緒にいるアザールって男はやべぇぞ。うちの国で冒険者登録したんだが、あの馬鹿デカい海竜を一発でぶっ殺しやがった」


 ブルサ王による聞きたくない補足情報。


 海竜の存在はミラリア連合としても悩みの種であったため、教会側もその驚異を正しく理解していた。


 一同の視線が自然とシュヴァイツ王の腕に向く。


 正真正銘“世界最強の男”であったシュヴァイツ王の片腕を奪った存在がいる。


 噂話でしか知り得ない海竜とは違い、目の前にある揺るがない事実。


 ギリギリと太陽王の歯ぎしりの音が響く。



「我が国にある月の雫も渡すことはできん」


 誰も言葉を発しなくなった場で、流れをぶった切るように発言をしたのはオルドソド王。


「お前、月の雫は使わず保管すると言っていたはずだが?」


 シュヴァイツ王は過去の世界会議における発言との齟齬を指摘する。


「事情が変わった」


 だが、オルドソド王は平然とそう答えるだけで、詳しく話そうとはしない。


「はん、結局“長ぇ”のも自分の言葉に責任を持てねぇって訳だ」


 ブルサ王がオルドソド王に突っかかる。

 一瞬で険悪な雰囲気になり、オルドソド王から膨大な魔力が漏れ出る。


「誰に口を利いている? 貴様の腹の中を探ってやってもいいんだぞ、“短い”の?」


 ブチィと何かが切れた音が響く。

 ブルサ王はどこから取り出したのか、巨大な斧を構えた。


「てめぇ、やんのか? あぁ?」


 オルドソド王は何も答えず、ただ魔力を練り始めた。


 神話の系譜に連なる者同士による一触即発の状況にサヴェリオは腰を抜かしてしまう。

 他国の王や枢機卿らも冷たい汗を背中に感じていた。



 その時だった――



 ダァンという大きな音がして、世界会議の象徴である円卓が割れた。

 シュヴァイツ王が拳を下ろしていた。


「止めよ、遊んでいる場合ではない」


 シュヴァイツ王の剣幕に二人は渋々といった様子で下がった。


 サヴェリオは今度こそ椅子から転がり落ちてしまう。


 シュヴァイツ王は思った。

 “この連中がまとまるはずもなかった”と。

次回、第33話「閉会」

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