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第24話 海竜討伐臨時パーティー

 ケマルと暴力的な友好を深めた後、俺はティンクといくつかの依頼をこなしていた。

 ここ一週間ほどはいろんな依頼を試し、冒険者について理解を深めたと言える。


 依頼場所やギルド内でマテオをからかったり、ケマルにからまれたり。

 バスティアンは不思議とこちらが欲しいと思ったタイミングで自然にアドバイスをくれた。


 依頼の良し悪しの見分け方、依頼主との交渉術、魔物の討伐証明部位など。


 おかげで懐事情もそれなりに改善されて、取り敢えずは一安心だ。



「はい、今回も無事に依頼が達成されたことを確認しました」


 いつものようにレナータが締めの処理をしてくれた。


 新たな実績が記録された冒険者リングが返却され、俺とティンクはそれを指にはめる。


「頑張ってるみたいだな」


 そう言いながらヤオトルがカウンターの奥から歩いてきた。

 目元には色濃い陰が刻まれており、その足取りはどこか億劫そうだ。


「それなりにな。最近見なかったがちょっと痩せたか?」


 ヤオトルは肩をすくめ、おどけた表情をしてそれに返した。


「……少し話がある。ちょっと来い」


 事情のありそうな様子に俺は黙ってついていくことにした。

 ティンクは戸惑っていたが、一緒に来るよう促す。


 俺たちがギルドの奥にある事務所へ歩き始めると、ケマルのパーティーとバスティアンも同じように続いた。


 彼らには事前に通達でもあったのか?


 視線をやると、ケマルがいつもの胡散臭い爽やかな笑顔を向けてくる。


「ついにだね」


 白い歯を見せながらケマルが話しかけてくるが、その表情はどこか硬くみえた。

 よく見ると、ケマルのパーティーもバスティアンも緊張しているようだ。


 支店長室と書かれたプレートのある部屋まで行くと、既に扉は開いていた。

 奥の大きな黒革の椅子に座り、頭を抱えて俯いているのはヤオトル。



「……三日後の朝、あの海竜を狩りに行く」


 部屋が重い静寂に包まれる中、ヤオトルが絞り出すように一言。

 ケマルたちの緊張度が一段階引き上がったのがわかる。


「このメンバーで行くのか」


 質問をしたのはバスティアン。

 その表情は、緊張しながらも腹を括った者のそれだ。


 ヤオトルは「そうだ」と短く答えた後、詳細を語った。


「討伐の臨時パーティーはケマルをリーダーとする。他のメンバーはケマルの指示に従え。ファリーダとターヒルはいつも通りケマルのサポートだ。シャディアは今回、バスティアンの指揮下で檣楼員として動いてくれ」


 ファリーダは魔術師、ターヒルは戦士、シャディアは斥候。

 いずれもケマルのパーティーメンバーだが、シャディアについては今回、バスティアンと共に行動するようだ。


 バスティアンは海賊専門のバウンティハンター。

 海の見張りとしては適役だろうし、斥候の目はサポートとして申し分ない。


「他にも海に強い冒険者を補助としてつけるが、あくまで対海竜の主軸はお前らだ」


 バスティアンやケマルらは力強く返事をする。


 ヤオトルはその様子を見て頷くと、俺たちに顔を向けた。


「ティンクは航海士として補助の冒険者らをこき使ってやれ」


 ティンクは「私なんかが」と言いかけたが、真剣な表情で呑み込んだ。

 彼女なりに今回の件にかける想いがあるのだろう。


 険しい顔をしているヤオトルも、ティンクを見る目はどこか優しげだ。


「アザール、お前は基本的に何もするな」


「は?」


 だが、続く言葉に俺は頭が真っ白になる。


「どうせその車椅子の姉ちゃんも連れて行くんだろう。お前はその姉ちゃんと一緒に船室のどこかで控えておけ」


「おいおい、そりゃあないんじゃないか?」


 実力的には俺がケマルより圧倒的に上であることはヤオトルもわかっているだろう。

 この国の冒険者ギルドでケマルが英雄であり、彼がリーダーであることに異論はない。


 だが、海竜との戦闘になった際、俺に一任するのが最も安全なはずだ。


「……」


 ヤオトルは俺を睨みつけたまま、何も言わない。


「まぁいいじゃないか。必要な時は働いてもらうよ」


 重い空気を壊すように、ケマルが間に入った。


「アザールは強い。でも、私たちも強い」


 魔術師のファリーダが呟く。

 ケマルのパーティーメンバーはそれに首を縦に振った。


「……わかった」


 俺はそれだけ言って、近くにあった椅子を引っ張り寄せ、座る。

 バスティアンは俺に何か言いたげだったが、口を噤んだ。


「話はまとまったな。ケマル、明日明後日でこいつらと航路と作戦を話し合ってまとめておけ」


 ヤオトルの無愛想な命令にケマルは肩をすくめて了承の意を示した。



***



 俺はサクラの乗るヴィネグレットを押しながら宿に帰っていた。


 ティンクはファリーダが何やら話をしたいとのことで、ギルドに残った。


 サクラとふたりっきりになるのは、久しぶりだ。

 初めてかも知れない。


「何をいじけておる」


 眠っているのか起きているのかわかり辛いサクラが、急に話しかけてきた。


「いじけてなんかねぇよ」


「いじける奴は誰もが同じことをいう」


 いつもは黙ってるくせに口を開けば余計なことばかりだ。


「うるせぇな、なんでもねぇよ」


 俺は子どもみたいな言い返しだと自覚しながらも、それ以上は言葉がでなかった。


「自分だけ役割が与えられなかったことが不満か?」


 だが、サクラはそれでも続けた。


「いつも一緒のティンクがいなくて寂しいのか?」


 ヴィネグレットのグリップを握る力が強くなる。


「この島に来て、冒険者になって、楽しいことがそんなに怖いのか?」


 その時、俺はどうかしていたのだろう。


「うるせぇんだよ!!!」


 人の往来が激しい大通りの真ん中で、俺はつい叫んでしまった。

 仕事終わりの商人や買い物を楽しむ主婦などが、こちらに怯えた目を向ける。



「私に苛立ってどうする」


 俺はサクラの乗るヴィネグレットを投げ捨てないよう我慢するので精一杯だった。


「アザールよ、“お前”はいつからそんなに感情的になったんだ」


 既に俺の耳にはサクラの声など届いていなかった。

 いや、耳を塞いでいたのかも知れない。


「……」


 俺が大声を上げただけで暴れないと知った通行人たちは、ホッとして動き始める。

 大通りにはいつもの喧騒が戻っていった。


「くだらんことで怯えるな。目的を達する手段はひとつではない」


 俺が、怯えている?


 サクラが言っていることの意味がわからない。

 言いたいことも、その意図もわからない。


 わかりたくない。



「……さっさと宿に帰るぞ」


 サクラはそう言うと、また寝ているのか起きているのかわからなくなった。


「送ってもらってる立場の人間が言うセリフじゃねぇな」


 絞り出した俺の嫌味にサクラからは何も返ってこない。


 俺はため息をひとつ吐き、再びヴィネグレットを押し始めた。


 金色のドームが照り返す光で街はオレンジに染まっていた。

 店の軒先には魔道具の光が燈り始める。


 海竜に悩まされ、経済は停滞気味であっても、活気の消えない街。

 ケマルが帰国して以降、どこか楽観的になり活気が増したとすら思える住民たち。


 コトコトと一定のリズムでヴィネグレットの車輪が鳴る。



 楽しいことが怖い、か。


 俺はサクラから言われた一言が、頭から離れなかった。

次回、第25話「近海の海竜」

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