第21話 支店長と受付嬢
モノ・アペックス。
純粋な属性魔法を極めた者は、そう呼ばれるらしい。
「ティンクは獣人族としちゃ考えられねぇくらい魔力量が多い。俺と変わらないほどだ」
ヤオトルは手放しにティンクを褒めた。
俺が聞き流している内に仲良くなったらしい。
「純粋な属性魔法の素質もある。文句なしにCランクだ」
そう言って、ヤオトルからティンクのランクが認定される。
ティンクは驚きの表情でそれを受け止めた。
Cランクといったら、冒険者でも中堅どころ。
長年、冒険者として着実に実績を重ねていった者が得られるランクだという。
「ですが、良いんでしょうか? 私なんかが……」
少し卑屈に思える発言にも、ヤオトルは笑顔で答えた。
「お前らが捕らえた海賊は賞金首だった。討伐ランクで言ったらBからCの間。数は足りねぇが、実力を証明するには十分だ」
太鼓判を押すヤオトルは「あいつらをやったのはティンクなんだろ?」と続ける。
やはりあの件については詳細を把握しているらしい。
「……っ! ありがとうございます」
ティンクは頭を下げ、礼を言った。
「んで、お前だがな」
ティンクに向けるそれとは打って変わって、面倒臭そうな表情で俺を見る。
「まぁ、Cランクで良いだろう」
つまらなそうにそう言った。
その態度にはムカつくが、俺としては何でもいいので受け流す。
「良いのか? 俺は何の実績も上げてないぞ」
だが、皮肉も込めてそう聞くと、やはり面倒臭そうな顔をしてヤオトルは答えた。
「馬鹿言うんじゃねぇ。お前がさっきノした連中の中にはBランクの冒険者もゴロゴロいたんだ。お前をGランクで登録したら奴らの立場もねぇよ」
Bランクは一般的な冒険者としてゴールとされるポジションだ。
腕が公に認められ、引退後もそれなりの職が与えられると聞く。
まぁ、各ランクの概要はこいつから聞いた話だが。
「あの、それだとBランクでも良いのではないでしょうか。アザールさんは私より遥かに強いですし、旅の知識も豊富です」
ティンクが俺をフォローするように素朴な疑問を投げかける。
自分と同じランクに俺が認定されることに引け目もあるのだろう。
「それは規則上できない相談だ。試験を受けたとしても登録時の最高ランクはC。例えそいつが“勇者”でもCランクからスタートだ」
ヤオトルは首を振りながら理由を説明する。
ティンクはどこか納得できない表情をするが、規則と言われたら納得するしかない。
「なんでも良いさ、ランクによって俺が変わる訳でもない」
事実、俺は自分が他人からどう評価されようが興味ない。
気に入らない奴は誰であっても殴るし、そうじゃなければ何もしないだけだ。
「わかりました。アザールさんがそうおっしゃるなら」
ティンクがそう言うと、ヤオトルは俺を見て舌打ちをした。
おい、聞こえてるからな。
「それはそうと、お前もこれで属性を証明してくれ」
ヤオトルはクアドラ・エレメンタリスに向けて顎をしゃくる。
嫌だ。
正直、嫌な予感しかしない。
「俺はCランクなんだろ? 良いじゃないか、今更そんなことしなくても」
無駄だと思いつつ、反抗の意を示す。
「ダメだ、属性はリングにも記録される。それにお前はいずれ必ずAランク以上になるだろ。冒険者ギルドとして、世界の平和のためには必要な情報だ」
急に仰々しい言葉で俺を言いくるめようとするヤオトル。
やはり抵抗は許さないようだ。
暴力で歯向かうことは簡単だが、真剣な眼差しのヤオトルに俺は折れた。
「はぁ、わかった」
俺は半透明な四角推に手を伸ばす。
ヤオトルは一瞬も見逃すまいと集中していた。
「因みに、基本四属性以外ならどうなるんだ?」
俺の能力は【渇き】だ。
この世界の魔法体系でいうと、どれに分類されるのかわからない。
そもそも魔力は使うが、魔法と言うより権能と呼ばれる能力だ。
砂漠のイメージでいうと土や火か?
風はないと思うが、水分量の操作という意味では真逆にみえる水であってもおかしくない。
「さぁな」
ここにきてヤオトルは回答を濁してきた。
俺は、どうせ何が起こっても大丈夫だろうと思い直し、魔力を込める。
太陽が生まれたのかと思うほどに視界がすべて光で埋め尽くされる。
――部屋から漏れ出た光はギルド中を照らし、真っ昼間でありながら「冒険者ギルドが光った」と街中が騒ぎになったと後に聞いた。
白に染まる光景の中で、四角推の頭頂点に光源があったような気がした。
***
この世界はよく光るな。
そんな無益な感想を抱いている内に光が収まり、視界が戻ってきた。
騒がしく感じるギルド内部とは対照的に、俺たちのいる部屋は静まり返っていた。
ヤオトルは先程の現象について考え込んでいる。
ティンクは何故か目を輝かせて俺を見ていた。
その時、ノックもなしに扉が乱暴に開けられた。
「支店長!」
叫びながら転がるように入室してきたのはレナータ。
走ってきたからなのか、冷や汗なのか、せっかくの綺麗な顔も汗だくで台無しだ。
「……ギルマスと呼べ」
「そんなことはどうでも良いんです! 支店長、無事ですか!?」
そのやりとりは、お約束の様に手慣れた印象だった。
ヤオトルはぶつくさと文句を言うが、レナータはヤオトルの無事を知って安堵の表情を見せる。
「何があったんですか? 先程の光は何ですか!?」
矢継ぎ早に質問を投げかけるレナータにヤオトルは「先ずはノックしろ」と文句を続けている。
それにしてもレナータ。
出会ってから今まで表情というか感情の振れ幅が広すぎるだろう。
「心配いらん。いつもの属性検査をやっていただけだ」
ヤオトルはクアドラ・エレメンタリスを指差しながら言う。
レナータはそちらに目をやりつつも、訝しげな表情を浮かべた。
「こいつらはCランクだ。リングの更新を頼む」
だが、ヤオトルはそんなレナータの様子を気にすることなく、業務の指示を出した。
それに対しレナータは青筋を立てながら、声を低くして反論する。
「ランク試験はどうされるおつもりですか? まさか、実施もせず認定しろということではないですよね?」
レナータは当然のことを口にする。
俺はそうなるよなと思うが、ティンクは少し不安そうな顔をした。
「試験なんぞいらねぇだろ。こいつらの実力は証明されてる」
「実績は冒険者登録以前の海賊捕縛だけです。Eランクならまだしも、それだけでCランクなんて誰が納得するですか?」
レナータの強い口調にヤオトルは思わず口ごもる。
いや、そこはしっかりしろよ支店長。
「こ、こいつはさっきマテオ共をボコボコにしたばっかりだぞ? Eランクになんかしたら、あいつらのメンツを潰しちまう!」
「それはそれ、これはこれです。規則は規則です」
数分前に俺へ規則を盾に迫ったばかりのヤオトル。
久々に「ぐぬぬ」と口に出す奴を見た。
「……国王からこいつをCランクにして海竜を討伐させろと言われている」
追い詰められたヤオトルは、とんでもない爆弾を落とした。
冒険者ギルドは政治的に中立じゃなかったのか?
いや、自分が出した依頼について注文するくらいはするか。
俺がツッコミを入れようとした瞬間、レナータの怒りは最高潮に達した。
「ギルドの内部情報を冒険者の前で漏らす馬鹿がどこにいますか!!!!」
それは部屋が震えるほどの怒号。
自慢の筋肉が何も役に立たないヤオトルは、小さい身体を更に小さくする。
落としどころのわからんところまでいっちまったな。
俺はどうするんだとふたりを見るが、レナータの怒りが治まる様子は見られない。
飛び交う怒声と悲鳴の間に、サクラのくすくすという小さな笑い声を俺は拾った。
次回、第22話「バスティアン・ルブラン」




