第16話 出会いは刺激的に
新編スタートです!
天気は良好、体調は万全、航海は良好だった。
この世界には“大陸”と呼べるだけの大きな島は無く、島嶼で成り立っているらしい。
ひとつの島にひとつの国が基本だそうだ。
俺は「都市国家みたいなもんか」と特に感慨もなく納得していた。
水平線は丸みを帯びているが、どこに目をやっても小さな島が目に入る。
そのほとんどは無人島か、あるいは近くの国に従属する小国とのこと。
「おーい! おーい! 助けてくれー!」
そろそろ目的地であるブルサ王国に着こうという頃、そんな声が聞こえてきた。
視線を向けると小さな帆船が一隻。
ティンクをみると神妙な顔で頷いたため、そちらへ舵をきる。
「すまねぇ、助かった。こいつが急に体調を崩したみたいでよぉ」
中年のみすぼらしい船乗りが、隣でうずくまる仲間を指さしてそう言った。
他の船乗りたちはうずくまる男を心配そうに囲んで見つめている。
その様子を見て、俺はティンクを隠すように前へ出る。
「そうか、災難だったな。俺たちにできることはあるか?」
俺がそう答えると、船乗りは嫌らしくニヤけた。
「ありがとうよ。さァ、船と金目のもんは全部くれ! 女は置いてけェ!」
船乗りが叫ぶと同時に、腹を抱えてうずくまっていた男も含め、船にいた者たちが次々と俺たちの船に飛び掛かってきた。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。
俺は海の素晴らしさを味わっていた気分を台無しにされ、拳に力が入る。
「アザール、殺さず捕らえよ」
俺が全員を殺そうと判断した瞬間、サクラが部屋から顔を出して指図してきた。
「……はいよ」
サクラの態度に苛立ちを覚えつつ、何か考えがあるのかとも思ったため、素直に従っておく。
みすぼらしい船乗りたち、もとい、海賊たちは迫ってきていた。
「私もやります」
ティンクはそう言って、風を集め始める。
「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと這いつくばれ!!」
先陣を切って俺に接近する男が声を荒げる。
海賊たちは既に全員が俺たちの船に乗り込んでいた。
「風の鞭!」
俺が動くより先にティンクの魔法が発動する。
ティンクの風は、海賊たちの脚を次々と打ち、全員がその衝撃と痛みでのたうち回った。
「アザールさん、彼らを縄で縛ります。手伝ってください」
ティンクは表情も変えず淡々と海賊たちを縛り上げていく。
俺は思わず「お、おう」と返事し、ティンクを手伝う様に彼らを拘束していった。
海賊たちは「こんな強ぇ奴らがいるなんて聞いてねぇぞ!」と言って内輪揉めを始めていたが、全員を縛り終えると大人しくなった。
「……いつから気付いていた?」
俺はティンクに聞いてみる。
「彼らが助けを求める前からです。私たちの船を襲おうと話しているのが聞こえました」
「そ、そうか」
耳が良いってずるいな。
俺はあいつらの顔を見るまで賊かどうかなんてわからなかった。
いつもは一歩引いた様子でサクラが絡まなければ大人しい印象だったティンク。
敵には容赦ないんだな、と俺は彼女の知らない一面を知った。
「良い手土産になるだろう。ブルサ王国の兵士にでも差し出せ」
また部屋から顔を出したサクラがそんなことを言う。
俺は内心で舌打ちをするが、その有効性も納得できるだけ何とも言えない。
「どうせ賞金首なら生死問わずだろ」
そんな情けない反抗をしてみるが、サクラは鼻を鳴らして顔を引っ込めた。
……いつか吠え面かかせてやる。
***
しばらくして港が見え、島の様子が鮮明に映る。
シュヴァイツの荘厳さとは異なる、異国情緒あふれる街並みだ。
小高い丘には金色のドームが陽に照らされ、ほのかにスパイスの香りが漂う。
港には多くの白い帆船が行き交い、礼拝堂を思わせる施設からは祈りの声が響く。
水煙草の煙が漂う路地裏、そこに散りばめられた青いタイルは新たな旅の始まりを告げていた。
「凄いな」
俺の呟きを拾う様にティンクはコクコクと頷いていた。
「そこの船! 着港したらすぐにこちらへ来なさい!」
入国審査をする兵士だろうか。
俺たちを見つけるなり、そう言ってきた。
「さて、役立ってくれよ」
俺はそう言いながら、海賊たちを睨むと、彼らは「ひっ」と声を漏らした。
舷梯を降り、海賊たちを引きずりながら兵士へ陽気に声をかける。
「よぉ、兵士さん。俺たちはしがない旅人なんだが、入国に何か審査は必要か?」
だが、俺の声かけに兵士はビクッと身を震わせ、チラチラと海賊たちを見る。
何か失敗したか? なるべくフレンドリーに振舞ってるんだが。
「お、お前たち! そいつらをどうやって捕まえた? 何者だ!?」
ん?
なんか怯えさせたのか?
「いや、こいつらは海賊だろ? 海で急に襲われたから拘束しただけなんだが」
騒ぎを聞きつけたのか、俺たちの周りには野次馬が群がってくる。
野次馬たちも俺が引きずってきた海賊たちを見て、驚きの声をあげている。
「俺は騙されないぞ! 何者かと聞いているんだ!」
兵士は決死の覚悟でもした様子で誰何を重ねる。
周囲の野次馬たちも遠巻きに見てヒソヒソ言うだけで、何やら怯えている様子だ。
「アザールさん? 何があったんですか?」
その時、ティンクがサクラの乗ったヴィネグレットを押しながらやってきた。
兵士はティンクとサクラが俺の仲間らしいことを知って、やや安堵の表情に変わる。
「お嬢さん! この男は何者ですか? 脅されているのですか!?」
兵士はティンクに「大丈夫か」と声をかける始末。
俺も自身の扱いにそろそろ苛立ちを覚え始める。
「え? アザールさんのことですか? 私たちの仲間……です?」
俺は頭を抱えてしまう。
ティンク、お前は意外と空気の読めない奴だったのか。
せめて今は仲間であることを断定しろよ。
「何ィ!? お嬢さん、良いからこちらに来なさい!」
兵士は義憤にでも駆られた様子でティンクに俺から離れるよう言った。
ティンクは疑問顔だが、「はい」と気の抜けた返事をしながら兵士のもとへ向かう。
俺の方を気にしながら歩いていくティンク。
いつもは無表情のサクラは笑いをかみ殺している様だった。
「兵士さん、俺はさっきも言ったようにしがない旅人だ。シュヴァイツから来たばかりでこっちの国のことはよく知らないんだが……」
ティンクが不思議顔のまま兵士のもとに辿り着く。
サクラは手で口許を隠しているが、絶対に笑ってやがる。
「こいつらを倒したのはその獣人の女だぞ?」
俺がそう言うと、兵士は悲鳴を上げながらティンクから距離をとった。
腰でも抜けたのか、無様に尻もちをついた状態でティンクを見上げている。
兵士は泣きっ面で「殺さないでくれぇ!」とティンクに縋った。
ティンクはキョトンとした顔をしてそれを見た後、俺に視線を向けると徐々に顔をしかめ、口がへの字になる。
「アザールさん?」
怒気の含まれた声。
サクラはついに声をあげて笑い出してしまった。
これって俺が悪いのか?
俺は縄で縛った海賊たちに目をやる。
彼らは彼らで必死に首を横に振った。
風が舞い、スパイスの香りが鼻をつく。
陽が位置を変え、金色のドームで反射した光が眩しい。
ブルサ王国、とんでもない国だな。
遠くからガシャンガシャンと機械的で重量感のある音が聞こえる。
だが、俺には怯える兵士の声が耳に残った。
次回、第17話「宮殿とブルサ王」




