第15話 海鳥と太鼓
シュヴァイツ編ラストです!
翌朝、陽がしっかり昇り切ってから俺たちは出航することにした。
船に荷を乗せ、航海に必要な道具を一通り確認する。
サクラは既に自分の部屋で寝ていた。
尾が増えても、あまり変わらない。
多少は起きて話をすることが増え、顔色も良くなった。
ただ、もともと口数は少なく、体調も万全には程遠い。
ティンクは今日も相変わらず甲斐甲斐しくサクラの世話をする。
「世話になったな」
見送りには宰相をはじめ、シュヴァイツの重鎮が何人か来ていた。
文句のひとつも言いたいところだが、俺はそれだけ告げる。
「アザール殿、これを」
宰相が渡してきたのは一通の封筒。
シュヴァイツ王のサインが入っていた。
「ブルサ王へお渡しください。それがあれば、ブルサ王国での旅も楽になりましょう」
ブルサ王宛の直筆の紹介状だ。
気楽に旅をするつもりだったが、サクラの立ち位置を考えると仕方ないことかもしれない。
「ありがたくもらっておくよ」
俺がそう言うと、宰相は微笑んだ。
重鎮たち、特に武官は俺の態度に怪訝そうな顔をする。
未だにこいつらは俺に礼節を求めているのか。
「それから……」
宰相が小声になって顔を近づけてくる。
俺は少しかがんで耳を貸した。
「我が王は“世界最強の男”でございました。ですが、それもアザール殿によって破られました。今後の世界は荒れるでしょう。我が国は王の称号によって支えられていた部分が少なくありません。どこぞの痴れ者がこれを好機と思うこともありましょう」
「巨兵団の強さは変わらないと思うが?」
俺は宰相の懸念に疑問をぶつける。
宰相は目を細め、更に声を落とした。
「それが解らぬから痴れ者なのでございます。そして、伝えたいことはそれだけではございません」
俺も声を落として「なんだ?」と聞く。
「世界はアザール殿を放っておきません。“目”と“耳”はどこにでもございます。くれぐれもお気を付けください」
それだけ言うと宰相は俺から離れた。
笑みを深め、先程とは打って変わって声を張り、頭を下げる。
「この度は我が王の鎖を断ち切っていただき、誠にありがとうございました」
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
宰相だけでなく、重鎮たちも声を上げて頭を下げる。
港で遠巻きにこちらを見ていた野次馬たちもギョッと驚いた。
俺に思うところは多々あるだろうが、これもまた彼らの本音だろう。
半巨人の集団が一斉に頭をさげる様子は圧巻だった。
「あぁ、達者でな」
俺は簡単に返事をすると、舷梯に足を踏み出す。
「ブルサ王国はゴーレムと共に暮らす独特の文化を持った技術大国でございます! きっと心躍る出会いがありましょう!」
宰相は次の目的地について、声を張り上げて教えてくれた。
俺は振り返らず手を上げてそれに応える。
「出航だ」
船に乗り込むとティンクに声をかける。
「はい!!」
ティンクは元気に返事をした。
彼女の顔にはもう憂いはない。
錨を上げ、船を進める。
港には俺たちを見送るシュヴァイツの人々。
宰相や重鎮たちだけでなく、野次馬たちも俺らを見送っていた。
その場のノリでやっているだけだろうが、悪い気はしない。
ティンクは笑顔で手を振り返していた。
その時、ドーン、ドーンと大きな音がした。
霊峰に食い込むようにして聳える巨大な城の方からだ。
船上からは小さく見えるが、それでも巨大な王の姿が見えた。
巨兵団と共にこちらに顔を向け、何かをしようとしていることがわかる。
先程の音は、巨兵団の陣の左右にある巨大な太鼓の音らしい。
今もまた、ドーンドーンと大きな音を鳴らしている。
「シュヴァイツ式のはなむけか?」
そんなことを言っていると、サクラが部屋から出てきた。
次の瞬間、一際大きな太鼓の音が船上にまで鳴り響く。
「「「「シュヴァイツが、シュヴァイツであるために!!」」」」
海から遠く離れた城から、ここまで届く半巨人の声。
彼らの唱和は、船上に立つ俺の芯まで震えさせた。
フンと鼻を鳴らしてサクラは再び部屋に戻っていったが、その顔はどこか嬉しそうだった。
ティンクは彼らに応えるように大声で「行ってきます!」と叫んだ。
港にいるシュヴァイツの人々も口々に「シュヴァイツが、シュヴァイツであるために」と楽しそうに叫んでいた。
屈強な兵士たちも、小さな子どもも、他国の商人たちまで。
空は青く、風は心地よい。
まさに航海日和だ。
海鳥も元気に鳴いている。
港からは歌声が聞こえ始めた。
ティンクは鼻歌を歌いながら海図をみて、進路を確認している。
「さて、次は技術馬鹿の国らしい。世界最強より強いゴーレムとかいると良いな」
俺は海をみながら独り言つ。
サクラの尾はシュヴァイツにあった。
次の島でもあると信じたいところだ。
遠く離れてもなお近くに感じる霊峰をちらりとみて、そんなことを思った。
太鼓の音は、しばらく聞こえていた。
次回、第16話「出会いは刺激的に」




