第14話 爆破事件の後処理
俺はサクラが休む部屋を訪ね、ティンクを外へ連れ出した。
サクラの傍を離れたがらなかったが、無理を言って付き合わせた。
「どうしたんですか、急に外へ行くなんて言い出して」
「落とし前はつけてもらわないといけないからな」
俺はもともとシュヴァイツ観光を楽しんでいたんだ。
それを訳の分からん事件に巻き込まれて、腹が立ってないと言えば嘘になる。
「とにかく黒ローブの連中を探すぞ」
正直なところ、連中に対する興味はない。
勝手にやってろというか、シュヴァイツが対応すべき案件だ。
ただ、鬱憤の溜まったティンクをそのままにしておく訳にもいかない。
俺の想いはティンクに伝わっていないのか、不満顔を隠そうともしない。
どこか遠慮がちだったティンクにしては珍しく、どこか嬉しくもあった。
「……私は、王を、この国を許せません」
街を歩いてしばらく経った頃、ティンクがそんなことを口にした。
「そうか。どうして許せないんだ?」
今ならティンクの真意が聞ける気がした。
「彼らはサクラ様が封印されることによって得た地位を守りたかっただけです」
それは、俺の想定していない考えだった。
ティンクは、言い訳をしながらサクラを助けなかった彼らに怒りを覚えていると思っていたが、違うようだ。
「どういうことだ?」
「簡単な話です。サクラ様の方がシュヴァイツの王より強いのは明らかでしょう。サクラ様はその御力を他者に向けることがなかっただけで、“世界最強”というのはサクラ様に違いありません。彼はサクラ様が封印されたことで“世界最強”の称号を手にし、各国間の勢力均衡において有意な地位を得ただけです」
どこか確信をもって断言するティンクの瞳には強い意志が感じられた。
だが、なるほど。
確かにサクラの魔力は異常なほどに濃厚で強力だ。
その魔力源である尾が切り離されてなお、封印の地の気候を変えてしまうほど。
たった一尾を保管するだけで、あれほどまでに厳重な設備と管理が必要だった。
「一理あるかもな」
俺はそう言うしかなかった。
女神が解呪できない呪いを解呪できるかもしれないというだけでも、サクラの実力がいかに非常識か解りそうなものだった。
「それをあんなにも自分たちに都合の良い部分だけを切り取ってつらつらと――」
ティンクが怒りにまかせて早口になりかけたその時、急に口を噤んだ。
「……見つけました」
どうやらおまけのイベントが先にやってきたようだ。
***
爆破事件の犯人確保は、あっさりと終わった。
ティンクの耳が黒ローブの連中の足音を拾い、追いかけて捕まえるのは簡単だった。
黒ローブの連中は急に現れた俺たちに驚き、成す術もなく拘束。
すぐに巨兵団の衛兵に連絡すると、連中は逃げ隠れた者も含め一網打尽となった。
「ありがとうございます!」
兵士らから感謝を述べられるが、特に思うところはない。
その日の内に犯人拿捕は城に伝わり、宰相との再会は早かった。
「彼らは秘密結社を称していましたが、教会との繋がりがみつかりました」
黒ローブの連中が投獄された場に宰相はやってきた。
息を切らしているところから、彼が急いでやってきたことがわかる。
アミグダロイド教の教会主義は、シュヴァイツにおいて少数派だ。
世界宗教として覇権を握っている教会だが、古参の三国を筆頭に影響力を持ち得ていない国はままある。
だが、交易や入国に制限のないシュヴァイツにおいて、教会主義が浸透していないことは珍しい。
教会の宣教師は優秀だと評判で、一団が新たな島に乗り込むと数年内に教会主義が身分も関係なく浸透すると言われている。
すべてエディから聞いた話だ。
彼は「シュヴァイツだから広がらない」とも言っていたが。
「改めて御礼を申し上げます。教会との関係についても見直す良い機会です」
宰相の顔は朗らかだった。
***
「エディ・ベル……か」
辺りは暗くなり、夕陽が霊峰を照らしている。
寝ているサクラを運ぶティンクが俺の呟きを拾った。
「エディさん、どこに行ったんでしょうね。城を出れば会えると思っていました」
ティンクの言う通り、俺も奴は城の外で俺たちを待っている気がしていた。
だが、街中で黒ローブの連中を探している最中も姿を見せることはなかった。
こうして話している間にも「旦那ぁ!」と声をかけてきそうな気がする。
ティンクがエディの正体を疑っているかどうかはわからないが、ただの旅人と片付けるにしては気に掛けているようにも思えた。
それにレイスの存在もある。
「まだまだ知らないことばかりだな」
ティンクは「はい」と元気な声で答えた。
サクラの一件についても、彼女なりに少しは整理できたようだ。
「もう一度、霊峰の近くまで行ってみるか?」
しばらくすると夜の帷が下りるだろう。
知らない土地でこの時間から大きく移動することは避けた方が良い。
「はい! 行ってみたいです!」
だが、ティンクはそう答えた。
彼女はヴィネグレットで眠るサクラに毛布をかけ、明るく歩き始める。
爆破事件の現場についた頃には、すっかり陽は落ちて暗くなっていた。
「うわぁ……」
ティンクが思わず声を漏らす。
空には満天の星。
見渡す限りに広がる光のキャンバスには、巨大な三角の闇が存在感を誇示する。
霊峰ヴァイセンゼーホー。
巨人伝説の生きるシュヴァイツの象徴。
この島に住む人々は、あの山のように気高く生きることが求められる。
その最たる範が王だ。
世界最強の男、シュヴァイツの王にして神話の系譜に連なる者。
サクラと同様、長寿で世界の成り立ちを知る存在。
彼の本当の戦いは、これからかも知れない。
次回、第15話「海鳥と太鼓」
シュヴァイツ編ラストです。




