9.伯爵令嬢リリアーヌ
ハリル侯爵邸の応接間は、混沌としていた。
王妃も国王陛下も、このような場所にリリアーヌを置いてはおけない、王宮に連れて行く、と息巻いている。
侯爵邸に連れ戻されたリリアーヌは、困惑していた。
これまで、素顔を出したままで外に出ることさえも、一度もなかったのだ。
どうしていいのかもわからない。
俯いたまま、声を上げる。
「わたしは、わたし、なんかが、王宮なんて、行けません。」
王妃は目を見開き、そして静かにリリアーヌに歩み寄る。
「貴方は、私達の大切な、大好きなセリーヌが生んだ娘よ。貴方も、私達にとって同じように大切な存在なの。」
「でも、わたし、わたし は、悪魔の、 」
「あなたは、悪魔の子なんかじゃない。何も知らず、今まで辛い思いをさせて、ごめんなさい。許して。」
マリベルがリリアーヌを抱きしめる。
リリアーヌの宝石のような瞳から涙が溢れた。
「わたし、は、生まれて来て、よかったの?」
ずっと苦しかった。
母を苦しめている自分の存在が。
マァーサが居てくれなかったなら、今、ここにいたかもわからない。
もちろん。当たり前よ。
生まれてきてくれて、嬉しいわ。
ありがとう、リリアーヌ。ありがとう。
マリベルは、リリアーヌの背中をさすりながら、何度も何度もそう言い聞かせ、その涙が止まるまでリリアーヌを抱きしめ続けた。




