8.王妃マリベル
(怪しい。)
最近、国王カイアルの動きが怪しいのだ。
幼き頃よりカイアルのことをよく知っているが、
カイアルは昔から非常に勤勉で、誰よりもこの国のことを思い、国王となってからも、堅実にこの国を導いてきた。
マリベルも、そんなカイアルを信頼しており、2人は夫婦というよりも、共に国政を担う同志のような存在であった。
賢王と呼ばれるカイアルであったが、何か後ろ暗い事でもあるのか?
国が傾くようなことがあってはならないと、
マリベルは、密かに、侯爵家の諜報員を動かしていた。
ちょうど、その報告書に目を通していたマリベルが、勢い良く立ち上がった。
「メリー!アン!急いで出掛ける支度を!」
王妃の侍女達が、何事かと目を丸くする。
「急いで!馬車の用意を!」
珍しく取り乱す王妃に、侍女達も驚きを隠せなかった。
* * * * *
(何故、今さらになって…)
馬車に揺られながら、マリベルは心ここにあらずであった。
幸せに暮らしていると思っていたソレーヌが、2人目を出産後に遠方で静養していると、貴族達の噂話で知ったのだ。
何度も手紙を出して、見舞いに行きたい、会いたいと願ったが、叶わなかった。
医師より、セレーヌの病状が悪化するので、
これ以上連絡をしないでくれと言われてしまえば、もうそれ以上なす術がなかった。
何も出来ずに、ただただ時間だけが過ぎていく。
何も出来ない自分に苛立ち、今日まで日々辛かったのだ。
キーッ、ガタタッ。
馬車が急停車する。
どうやら、転がってきた商品か何かが道を塞いでいるらしい。
マリベルは窓から外を見つめる。今日は、随分と風が強い。
通行人の少女のマントが、突風に煽られてひるがえる。
王妃の視線が、その少女に釘付けになる。
「セリーヌ?!セリーヌ!!」
マリベルが、転がるように馬車から飛び出し、護衛達は慌てふためく。
そこに居た少女は、俯きながら、慌ててフードを被り直そうとするが、マリベルがその手を掴む。
まるで宝石のようなサファイアブルーの瞳。
この国で王族にしか出ることがない色味。
そこに居たのは、セリーヌによく似た、淡い金髪の碧い目をした少女であった。




