6.伯爵令嬢リリアーヌ〜ハリル侯爵邸
(マァーサに会いたい)
池のほとりに腰をおろして、リリアーヌは遠くの空を見上げていた。
あの日馬車の中で、国王と名乗ったその人は、
このような場所に、これ以上リリアーヌを置いてはおけない、これから行くハリル侯爵家でそこの令息と結婚するのだ、もちろん、すぐに結婚する訳ではなく、まずは婚約からだが、と言った。
この私が、結婚?婚約?!
一体、どういう事なのか?
困惑して、頭の中は、パニック状態であったが、結局のところ、リリアーヌの生活は何も変わらなかった。
(当然だわ。)
むしろ、リリアーヌは納得していた。
突然の事に、ハリル侯爵夫妻はリリアーヌの扱いに困惑していた。
特にハリル侯爵夫人は、この婚姻話には反対であり、当の本人であるマーカスもまだ戻っていない状態である。
(悪魔の子を侯爵邸に招き入れれば、何か呪われるのではないか?)
半分本気で、そのように思っているのだ。
こうしてリリアーヌは、侯爵邸の裏庭にある、庭や池を管理する離れで暮らす事になった。
食事は、毎回使用人が運んでくるので、衣食住には困らず、むしろ以前の丸太小屋に比べればマシな住まいである。
だが一つだけ違うことがある。
これまで、ずっと一緒だったマァーサが居ないのだ。
マァーサはリリアーヌにとって、たった1人の家族である。
(マァーサに会いたい。マァーサに会いたい!)
ハリル侯爵邸に来てから2週間が過ぎ、
リリアーヌはもうこれ以上、孤独な1人の生活に耐えられそうになかった。
そこで、リリアーヌは、ある決意を固める。
クローゼットの中には、赤いフード付きのマントがあった。それを被れば、顔を覆い隠すことが出来るはず。
使用人達が出入りする裏口が、更に裏手に有る事もわかっている。
(マァーサに会いに行こう!)
リリアーヌは、ぐっと拳を握り締めた。




