3.ハリル侯爵家
あなた、一体、どういうことですの?!」
ハリル侯爵邸の執務室で、ソファに座っていた侯爵夫人が、興奮を押さえきれずに、机を叩いて立ち上がる。
「それは、あの、悪魔の子を、うちが、
我が家が、嫁に迎えると、そういうことですの?!」
わなわな震える夫人をよそに、
「あぁ、そうだ。」
と、ハリル侯爵が冷静に頷く。
ハリル侯爵は、この国で国王の右腕である宰相という重職に付いている。
国王が王太子の頃より側近として、その執務をサポートしてきた。
一般的に、王太子が成婚すると、貴族達はみな、次代の王太子のご学友やお妃候補にと、同時期に妊娠、出産を計画するものだ。
そう、フライングだったのだ。
王太子のカイアル殿下が結婚し、程なくして御子が産まれるだろうと、私たちは子を授かった。
ところがだ、王太子夫妻は中々、子宝に恵まれなかったのだ。
やっとのご懐妊で、王子を授かったが、今度は我々夫婦が中々、2人目に恵まれなかった。
王太子妃のご懐妊に会わせて、貴族達が次々と妊娠、出産していく中での焦り。
結局、我が家の息子達はといえば、キーリク殿下を挟んで、3つ違い。
もちろん、王太子の側近候補などに入り込める余地などはなく、長男のマーカスは領地経営に、次男のルークは騎士団に所属している。
「陛下から、直々に頼まれたのだ。」
そう、長男のマーカスは、より家の利になる相手をと、慎重に選んでいたら、気づけば22歳。未だ、婚約者も居ないのだ。
まさに、うってつけの相手であったであろう。
しかし、世襲制ではない、まさに生き馬の目を抜くこの貴族社会で、次期宰相のポストを匂わされたのだ。
国王に恩も売れる、この機会を物にしないわけにはいかないのだ。
「領地にいるマーカスには、至急王都に戻ってくるように知らせを出してある。」
旦那さま〜 旦那さま〜〜
「なんだ、騒がしいな。」
遠くから、執事のロイドの声が、どんどん近づいてくる。
「旦那様!へ、へ、陛下が、陛下がいらっしゃってます!」




