2.伯爵家嫡男アレン
(はぁーっ )
声にならないため息が漏れた。
アレンは、次期キンバル伯爵として、領地で日々領地経営の忙しさに追われていた。
「いやな季節だな。」
秋は嫌いだ。
この季節になると、嫌でも思い出す。
母と、そして妹さえも失ったあの日のことを。
その日アレンは、間違いなく誰よりも浮き足立っていた。妹か弟が生まれるのだ。
妹が産まれたら、誰よりも可愛がろう。弟には、自分のおもちゃを貸してあげてもいい。
そんな事を考えながら、妹か弟の誕生を、今か今かと待ち構えていた。
だが、屋敷に響いたのは赤子の鳴き声と母の悲鳴だった。
「マァーサ!母上は?赤ん坊は?!」
その質問に答えてくれる者はいなかった。
母上に会いたい、妹に会わせてと何度も何度もお願いしたが、その望みが叶うことは、今日まで、ただの1度もなかったのだ。
ただ大きくなるにつれて、伯爵家の噂は、嫌でも耳に入るようになった。
(赤子を見るなり、悪魔の子よ!と半狂乱で泣き叫んだそうよ)
(精神を病んで、遠方の別荘で静養してるらしいわ)
(今の今まで人前にも出さずに、隔離してるという話は本当なのかしら?デビュタントもまだでしょう?)
(一体どれほど醜悪な娘なの?)
使用人や貴族の間で噂は広がり、今では、「キンバル伯爵家の悪魔の子」は、噂好きの社交界では、誰もが知る存在となっていた。




