第――話 追記
追記
初めまして。私は西野優斗と言います。この物語の主人公になった者です。
あれから数年が経ち、私は大学生になりました。彼女の遺灰が入ったペンダントは、肌身離さず持ち歩いています。彼女が遺した言葉は、いつまでもエネルギーが費えることはないでしょう。
私はいま、特別色恋はしていませんが、いずれはまた誰かを好きたいと思っています。彼女が明るい未来に連れて行ってくれるなら、それは不可欠だと理解していますから。
この後日談を書いている今日は、彼女と交際して五年になる節目の日です。今年もまた、寂しく春は過ぎ去っていきました。ですが、彼女と過ごした運命の日々が、僕の人生から霧消することはないでしょう。
この小説の作者であり、私の永遠の親友でもある紀野は、高校三年生の頃に、私の奇妙な初恋を書き留めた、この小説を執筆し始めました。本文にあったように、紀野は僕に黙って運命を指揮していました。僕の発言に違和感を持った紀野は、彼女と接触して、理想の最期に仕向けてくれたのです。
彼女の死後、紀野から執筆の提案を受けた僕は、二年に及ぶ色恋を事細かく思い出して、最後にはこの一冊に書き連ねてもらいました。ただ、様々な要因から、制作に二年の月日を要しました。しかしその過程で、僕は忘れかけていた彼女との記憶を、掘り起こすこともできました。そのかけがえのない思い出は、小説という媒体で半永久的に遺されることになりました。
紀野には、いまでも感謝の念に堪えません。この作品は、とあるコンテストで銀賞に選出されましたが、評論では、「上手いこと日常に異常を溶け込ませている」や、「夢物語の傑作」などと評されました。なので未だに、あれをせん妄の一種や夢だと思って、やまない自分もいます。でも、それでいいのです。空想上の存在だからこそ、彼女は人々の心に寄り添っては美化されます。彼女はいつまでも孤独ではいられず、私はそれがたまらなく嬉しいのです。
私は今朝、奇妙な夢を観ました。空間は魚眼レンズで撮った画像のように歪んでいて、ここが現実でないのだと悟らせました。
僕の先に立っていたのは、いつか甘い春を共にした、あの白髪の少女でした。




