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夢の中で僕を励まし続けたのは、死にゆく未来の彼女でした。【長編小説】   作者: 金森 亮
第九章 最期の一週。

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第25話 死境(しざかい)

 4月13日、晩、僕は半年振りに、明晰夢に飛ばされた。この期に及んで、僕が彼女に尋ねる事柄も更々ないので、僕のほうからは口を開かなかった。

 すると彼女は、僕に冗談半分でこう言う。


「怖い?」

「......なににですか?」

「私が死ぬこと。」

「唯花の死は受け入れられても、唯花不在の世界は受け入れることができません......。」

「その言葉は私にとって、救いの言葉よ。」

「どうしてそうなるんですか......?」

「だってその一言で、私は自分の存在価値を証明できるもの。これなら、私は自分の存在価値を認めたまま、暗いトンネルを突き進めるわ。」

「......僕は唯花に、もっと永く生きてほしいです。僕はまだ、別の運命の存在を諦めきれていません。」

「......もし、私がいまよりも生き永らえる路があったとして、優斗は自分が精神的苦痛に悶えることになっても、それでも私を生き永らえさせる?」

「えぇ、おそらくは。」


 僕は自身を持ってそう述べる。だが、どうやらその言葉に彼女は突っかかってしまったようだ。


「優斗、それは嘘よ。」

「僕の考えは、唯花に長生きしてもらうことで......。」

「私との思い出を抹消できるだけの勇気が、優斗にあるとは到底思えないわ。」

「それは......、唯花の勝手な解釈でしょうが。」

「えぇ、私の勝手な解釈よ。でも、私は優斗の妄想なのよ。つまり、私は優斗の記憶・価値観から、いくらか情報を引っ張り出してきているの。私がなにを言いたいのか、もう分かったわよね......。」

「理屈がそうでも、やっぱり本心はそれを真っ向から否定してきます......。」

「......本心ってなに? その自己犠牲が本心? でもそれが本心なら、どうして今日まで私と一緒に生活したの?」



 僕は反駁できなくなった。彼女は僕の妄想なので、僕の返答を想定した反論ができる。勝ち目はなかった。彼女は僕の目の前に立って、こう言う。


「......優斗、あなたは正直にならないといけないの。私が死んでからも我慢の連続なら、結局元の孤独に逆戻りするわ。私はそれだけは、ゼッタイに避けたいのよ。だから、頼んだわよ、優斗......。」


 彼女がそう言い放つと、僕は夢の世界から離脱した。



 今日はいつもより、夢中の時間が短かった。その最たる要因は、『唯花』から一通の連絡が届き、その通知音に目を覚ましたためだった。



 僕は脳が曖昧な状態で、「痛み止めがほしい。」という文面を視認した。これに叩き起こされた僕は、午前2時に家族の目を避けるようにして、家を出た。


 コンビニに行っていると置手紙をして、実際に僕はコンビニに向かった。種類は限られているので、ありったけの市販薬を購入した。そして迷いもせず、僕は一路、彼女の家に向かった。


 玄関扉が開くと、手で胸を押さえつける、彼女の姿があった。


「薬、買ってきましたよ......。あ、でも、胃に何か入れないと。」

「ありがとうね......。でも、いっぱいお水を飲めば平気よ。」


 しばらく安静にしていると、彼女が訴えていた胸の痛みは落ち着いた。


 ただ、病名を知っている僕は、また痛みが再発することを危惧していた。そして、僕は彼女にこう言う。


「また痛むことがあったら、必ず薬を飲んで、それでもだめなら......救急車を呼んでください。」

「......えぇ、そうするわ。自分の胸が痛いからって、優斗を無理矢理起こして、優斗の日常生活を奪ってしまったもの。いま思えば、それは優斗の彼女として、不本意なことだったわ。」

「......それは言い過ぎです。困ったときはお互い様じゃないですか。それに......、僕は唯花の彼氏なんですよ......。」

「......そういうところよ。優斗。」

「そういうところって......。」

「今日はごめんね。もう帰っていいわよ......、というか帰りなさい。ご家族にバレたらまずいものね。」

「......なにかあったら連絡するんですよ。」

「うん、ありがとう。」


 僕が玄関の方向を向いた瞬間、僕は彼女に抱擁された。息が苦しくはないものの、それなりの圧力でぎゅっと包み込まれている。


 彼女の身体の節々が接触しており、深夜ということも災いして、僕は半分理性を失いかけるが、直後に彼女がこう呟く。


「これが人の温もり......。あったかい......。」


 この一言によって、僕は無事に残り半分の理性を取り戻せた。そして彼女は、なぜか鼻をすするようになり、僕にこう告げるのだった。


「......私、怖かったの。あれで私、もう死んじゃうんじゃないかって。でもね、私はまだ死ねないの。死にたくないんじゃなくて、死ねないのよ。」



 23日まで、彼女が死ぬことは無い。もし彼女がそこまで知っているのなら、たしかに彼女はまだ死ねない。


 たとえ僕が刃物で彼女を刺しても、運命が彼女を死なせないだろう。


 僕は彼女に同情しつつ、彼女が平常心を戻せるよう、こう言い掛けることにした。


「......僕は唯花を死なせません。僕はいつでも、唯花の近くにいます。だから、僕の言葉を信じてもらえませんか。一応これでも、唯花の彼氏なんですから......。」

「......ごめんね。本当に、ごめんね......。」

「謝らないでくださいよ......。」

「......ありがとう、優斗。」


 彼女は抱擁をやめると、その場で膝をついて、思いっきり涙した。僕はそんな彼女の頭を、優しく撫でて、彼女が笑顔になるそのときまで、温もりを与え続けた。


 僕はちゃんと、あの幸せノートに則って、彼女を幸せに導くのだった。



 彼女の笑顔を確認した僕は、急ぎ自宅に戻った。置手紙の位置は、なにも変わっていなかった。

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